君を思うと、胸がぎゅっと痛くて

アキ先生は優しく手を握ってくれる。
そしてそのままお腹を優しく撫でた。

「居たんだ、ここに俺たちの子供」
「え、嘘ーー」
「嘘じゃない」

アキ先生は真剣な瞳で返す。
なら、なんで。
その未来にずっと、とどまらなかったの?
わざわざ過去に戻ってきたの?

「アキ先生はずるい。なんでもお見通しだし。さゆのこと、全部わかってて、今も黙ってるんだ」
「違うよ。俺がここにいるのは、ここに戻ってきたのは、やり直したかったから」
「どういうこと?」
「さゆは未来では、俺がもう一度手術をしてそれが成功する。そこからは数年単位で状態が落ち着く。そして俺たちは結婚して子供を授かるけれど、出産の負担に耐えられなくて、さゆの命が終わってしまう。それじゃダメなんだ。だから必死で探して、この世界線があることを知った俺はここにくることにした」
「ここがその世界なのーー?」
「うん。白い蝶々と約束の場所が見えて、そこで彼らが出会った世界線。鍵はここにしかない」
「ーーえ?」

約束の場所って、もしかして、奏のこと……

「バタフライ・エフェクトって、知らない?」
「知らない」
「じゃあ今はまだ、知らなくていい。とにかくその体を誰よりも大切にしろ。俺はさゆのことを愛しているーー」

先生はぎゅうっと体を抱きしめてきた。
先生の体が冷たく震えていた。
怖い未来なんて、来ないよ。
そう言えたならいいのに。
何でだろう。私、そう言えなかった。
それに寂しかった。
だって先生が愛してるのは、この私じゃないと知ってしまったから。