君を思うと、胸がぎゅっと痛くて

お腹があったかい、心はもっとあったかい。
なのにこの胸だけがぎゅっと痛くて。

「ねぇ、アキ先生」
「なんだ」
「もう一度だけ聞かせて。なんで私にそんなに優しくしてくれるの?」
「さゆのことが好きだからだ」

先生は真っ直ぐな瞳で私を見つめて、そう言った。
嘘は無い。
なのに、先生はどこかもっと遠くをみてる。

「先生、違うよね。それはきっと”私”が好きなんじゃない。先生はいつもどこかちょっと他の人と違った」
「どうしてそう思う?」

ーー間もなくパレードが始まります!

楽しそうなアナウンスが流れるのに、寂しくて。

「だって、普通、患者に”次の桜は見られない”なんて言えないもん。まるで、そうしないとその未来が来ないと始めから知っているみたい」

パレードが始まる。
キャラクター達はパレードカーの上で、踊りながら音楽に乗ってやってくる。

アキ先生は1度目を閉じて、何かを決めたみたいに言った。

「ーーそうだよ。俺は未来から来た。そこはさゆが大人になるまで生きている世界線。その世界での夫はーー俺だよ。だから俺は一番に”未来に置いてきたさゆ”を愛している」

「ーーやっぱり。そんな気がしてた。ねぇ、そんなことほんとに出来るの。それに、私が死んじゃう未来もちゃんとあるんだね」

「あるよ。さゆの死ぬ未来を止めるために、俺は全てを捨ててきた。何を失ってもさゆを守るよ。何度だってやり直せる」

「どうして?」

「昔、俺は魔法使いになるって約束しただろ。シンデレラをお城へ連れていく係だ」

そんなの、おとぎ話のような冗談だって思ってた。
パレードのきらきらが合わさって、本当に嘘か現実かどうか分からなくなる。