君を思うと、胸がぎゅっと痛くて

「さゆ、ちょっと歩けるか」
「ん?」
「俺たちの秘密基地、いまから行こう」
「え、いいの!?」
「久しぶりに俺が行きたくなったんだよ」
「やったぁ」

私たちが出会った、秘密基地。
丘を登ったそこはいつも静かで誰もいない空き地。
だけど、この街が見渡せる。

「無茶はするなよ」

そう言って奏は私のペースに合わせてゆっくりと歩いてくれた。
私もゆっくりゆっくり丘を登った。

「奏……」
「ん?」

私のカバンまで持ってくれる奏。
振り返ったその顔は、あの頃とは違くて。
お兄さんみたいに、逞しくて。
ほんとにどんどん絵本の王子様みたいになっていく。

「ありがと。いつも私が元気ない時、そばに居てくれて」
「何言ってんだ。当たり前だろ。約束したから」
「ふふっ」

ずっと一緒にいる約束、覚えてくれてたんだね。

「なんだよ」
「まだ、有効なんだ?」
「はぁ? 来世も来来来世まで有効だ」
「えー」

不満そうにするな、とゲンコツされた。
奏の真っ直ぐな思い、すごく愛しいと思った。