時は過ぎ、中学2年の春。
桜の散る、暖かな日の夕方。
私は病院にいた。
わずかに高鳴る心臓を手のひらで抑えている。
差し込む西日が眩しくて、うっとおしいくらいだった。
診察室の机を人差し指の爪でトントン叩きながら、アキ先生がイラついているのがこちらまで伝わってきた。
「もうさ、今日は終わりでいいよ」
そうして、私の担当医は吐き捨てるようにして言った。
「だって治す気ないでしょう? もう諦めてるでしょ」
私は笑顔でただ静かに穏やかに頷いた。
「……何もしなければ来年の桜は見れないかもね」
「いいんです。思い残すことは、もうひとつもないから。アキ先生、今までありがとうございました」
あっという間に梅雨の季節が来た。
だんだん蒸し蒸しする日が増えてきて、紫陽花が少しずつ色付き始めている。
しとしとと降り続ける雨を見ながらふと、こうして雨を見るのも最期かなと思う。
嬉しい、やっと終われるんだ人生。
「さゆ!」
「陽菜、どうしたの?」
すると、後ろから私の友達の諏訪野陽菜が話しかけてきた。
「ねぇねぇ生徒会辞めたってほんと?」
「うん」
「どうして!」
「どうしても何もめんどくさいから」
「さゆ、小学校のころもずっと続けてたのに。それに生徒会には」
「いいの! もう。陽菜には関係ないじゃん」
「さゆ……」
陽菜とは同じ年で、病院で入院してる時に出会った。
陽菜は喘息持ちで、私は心臓病。
私たちは、病棟を抜け出したり、イタズラしたり、変なところで気が合ってすぐに仲良くなった。
退院しても同じ学校で、違うクラスだけど大体いつも一緒にいる。
だからお互い全部知ってる。
この後に何を言いたいかも、もう分かってる。
「陽菜は自分のことだけ考えときなよ」
ごめんね、陽菜。
桜の散る、暖かな日の夕方。
私は病院にいた。
わずかに高鳴る心臓を手のひらで抑えている。
差し込む西日が眩しくて、うっとおしいくらいだった。
診察室の机を人差し指の爪でトントン叩きながら、アキ先生がイラついているのがこちらまで伝わってきた。
「もうさ、今日は終わりでいいよ」
そうして、私の担当医は吐き捨てるようにして言った。
「だって治す気ないでしょう? もう諦めてるでしょ」
私は笑顔でただ静かに穏やかに頷いた。
「……何もしなければ来年の桜は見れないかもね」
「いいんです。思い残すことは、もうひとつもないから。アキ先生、今までありがとうございました」
あっという間に梅雨の季節が来た。
だんだん蒸し蒸しする日が増えてきて、紫陽花が少しずつ色付き始めている。
しとしとと降り続ける雨を見ながらふと、こうして雨を見るのも最期かなと思う。
嬉しい、やっと終われるんだ人生。
「さゆ!」
「陽菜、どうしたの?」
すると、後ろから私の友達の諏訪野陽菜が話しかけてきた。
「ねぇねぇ生徒会辞めたってほんと?」
「うん」
「どうして!」
「どうしても何もめんどくさいから」
「さゆ、小学校のころもずっと続けてたのに。それに生徒会には」
「いいの! もう。陽菜には関係ないじゃん」
「さゆ……」
陽菜とは同じ年で、病院で入院してる時に出会った。
陽菜は喘息持ちで、私は心臓病。
私たちは、病棟を抜け出したり、イタズラしたり、変なところで気が合ってすぐに仲良くなった。
退院しても同じ学校で、違うクラスだけど大体いつも一緒にいる。
だからお互い全部知ってる。
この後に何を言いたいかも、もう分かってる。
「陽菜は自分のことだけ考えときなよ」
ごめんね、陽菜。



