君を思うと、胸がぎゅっと痛くて

桜の散る、暖かな日の夕方。
私は病院にいた。
でも、私はもう大人の女性になっていて、もうすぐ死ぬのがわかる。
わずかに高鳴る心臓を手のひらで抑えている。

差し込む西日が眩しくてもうすぐ日は落ちる。
アキがイラついているのがこちらまで伝わってきた。
白衣を乱しながら、涙ぐみながら、私の手を握る。

「どうして! これ以上ないくらい手術は成功したのに。まだあの子だって……」

そうして、私の担当医は悔しそうに俯く。

「もう……手立てがないんだ」

私は笑顔でただ静かに穏やかに頷いた。

「……来年の桜は見れないね、ごめんね」
「そんなことはない! 俺たちはこれから家族になるんだよ!
「思い残すことはもうひとつもないから。アキ、あの子をよろしくね。そしてアキ先生、今まで本当にありがとうございました」


そこで、とぎれる心電図の音ーー。
あ、世界が終わった。
それでも私は、まだ、生きている。
世界はまだ、私に何かを尋ねる。

”君がなすべきことは、まだ終わってないから”


胸の奥がぎゅっと痛くなって、熱が戻る。



今朝は不思議な夢を見たな、と思った。
よく覚えてないけど。

梅雨の季節が来た。
私は中学2年生で、普通に学校に通っている。
だんだん蒸し蒸しする日が増えてきて、紫陽花が少しずつ色付き始めている。
しとしとと降り続ける雨を見ながらふと、こうして雨を見るのも最期かなと思う。
私は心臓が悪くて、小さい頃から何度も手術していると、不思議といつ死んでもいいように、準備してしまうんだ。

「さゆ!」
「陽菜、どうしたの?」

すると、後ろから私の友達の諏訪野陽菜が話しかけてきた。

「ねぇねぇ生徒会辞めたってほんと?」
「うん」
「どうして!」
「どうしても何もめんどくさいから」
「さゆ、小学校のころもずっと続けてたのに。それに生徒会には」
「いいの! もう。陽菜には関係ないじゃん」
「さゆ……」

陽菜とは同じ年で、病院で入院してる時に出会った。
陽菜は喘息持ちで、私は心臓病。
私たちは、病棟を抜け出したり、イタズラしたり、変なところで気が合ってすぐに仲良くなった。

退院しても同じ学校で、違うクラスだけど大体いつも一緒にいる。
だからお互い全部知ってる。
この後に何を言いたいかも、もう分かってる。

「陽菜は自分のことだけ考えときなよ」

ごめんね、陽菜。