君を思うと、胸がぎゅっと痛くて

「朝ご飯は食べたのか?」
「いいえ」
「薬は?」
「母からすごい量の受け取って、そこに」

私は横の棚を指さして応えた。

「俺に怒られたくて仕方ないようだな。今日はドクターストップ。さゆは家で補習だ。俺がさゆの生活態度について、よぉく教えてやる」

はぁ、と思わずため息をついてしまう。
でも家にまで来てくれたのに、追い出す訳にもいかないし。
私は着ていたブレザーを脱いで、横のハンガーにかけた。

「先生、とりあえずお茶でも入れてきます。それともコーヒーがいいですか?」
「当直明けで眠いんだ。コーヒーがいい」
「はい……」

当直明けって、夜中まで働いてからここに来たってことだよね?
すっごい無理させてるじゃん。
でも何か言える資格、私にないしと思って。
キッチンに向かった。
ゆっくりとお湯を沸かして、コーヒーのドリップバッグをマグカップに取り付けた。

「アキ先……」

コーヒーにミルクや砂糖がいるかを確認しようとしたら、ソファーに座っていたアキ先生はいつの間にか横に倒れ、スースー寝息を立てて眠っていた。
私はコンロの火を消して、隣の部屋から毛布を持ってくる。
毛布をかけると、そのままアキ先生の寝ている近くにしゃがんだ。
いつもより幼げに見える先生の寝顔をついついじっと覗いてしまう。
まつ毛がすごく長くて女の子みたいだよ。

「先生、会いに来てくれてありがとう。大好きーー」

くったりと力が抜けているアキ先生の細くて大きな手に自分の手のひらを少しだけ重ねて、私は小声で呟いた。
先生の手はいつもあったかい。