君を思うと、胸がぎゅっと痛くて

ガチャ。と鍵を空けて内側から玄関扉をひらいた。
きっとまた宅配だ。お母さんが頼んだ化粧品かなにかだろう。

「はいはーい!! ……て、え!?」
「なんだよ。そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔して」
「ーー、だってアキ先生。なんでウチに」
「なんでって。お前が会いにこいって言ったんだろ?」
「え、はい」
「だから、会いに来た」

そう、そこには、ちょっと罰が悪そうで、降りしきる雨をウザったそうに手で避けるアキ先生が居た。
当たり前だけど私服で、パーカーとか着てて、いつもの白衣のときと全然ちがう。

「と、とにかく中に入ってください」
「あぁ、助かる」
「リビングこっちです。ソファでもどこでも適当に座ってください。わ、私タオル持ってきます」
「走るなよ。俺が来た意味なくなる」

言われるがまま頷いて、混乱したままの頭を抱えながら洗面所へタオルを取りに行った。
なるべくゆっくりとリビングにもどると、アキ先生はお父さんの写真の前で手を合わせて静かに座っていた。

「先生、タオル」
「あぁ、悪い」
「なんで……」
「プッ。さっきからそればっか」

アキ先生は笑いながら立ち上がり、私の頭をポンポンと叩いたあと、ドスンとソファに腰を下ろした。

「そんなに形だけの理由をつけて、安心したいか?」
「だってあんな言葉を真に受けると思わなくて」
「売り言葉に買い言葉、喧嘩は買う主義なんで」
「ごめんなさい……。先生忙しいのに。私なんかの」

私なんかのために、とそう言おうとしたら、手で口を塞がれた。

「不良患者のための往診だ」
「えーー」
「理由。理由があれば良いんだろ」
「でも」
「母親にもそう言ってある。伝えてもらうはずだったが聞いてないか?」

聞いてないし!!
学校行くとこだったし!!
お母さんのバカー!!