ふっと湧いて出たような自然な言葉に私は涙が止まらなくなった。
奏はずっと奏のままなのに。

いつの間に、好きって言葉に素直に「私もだよ」って返せなくなっちゃったの?

「うぇーんッ……!!」
「泣かないで。すぐに返事はいらないから」
「私っ、私、卑怯なの。ずるいの。優しくしてくれるなら誰でもいいの!! だから……そうくんに好かれる資格ない」
「そうくんって、懐かしいな」
「ひっ、ひっく……」

ごめんねとか、なんでそんなに優しくしてくれるのとか。
そんな言葉じゃなくて、悲しい言葉じゃない、ホントの気持ちひとつでいいから奏に伝えたいと思った。

「あ、そうだ! 俺お見舞い持ってきたんだよ。うさぎさん印のりんごジュース。これ、さゆ好きだったろ?」

カバンからポコポコと可愛らしいうさぎが描かれたりんごジュースのパックをいくつも取り出す、奏。
思わず、吹き出してしまう。

「私これー、小学生以来、飲んでないよ」
「そうなの? でもこのうさぎ、さゆっぽくて癒される」
「え! 私こんなにぼーっとしてないもんー」
「そっくりだぞ?」

全然違うしって笑うと、奏も笑った。
久しぶりに見る奏の笑顔。

「ねぇ奏、りんごジュースのお礼。ほんとのほんとの気持ちひとつだけ言ってい?」
「ん? なに」
「そばに居たいよ」
「ーーうん、分かった」

私から生徒会も辞めて、わざと距離を置いたくせに。
矛盾だらけで、訳もわかんないだろうに。
奏は何も言わなかった。

「じゃあさ、夏休みの自由研究一緒にやろう」
「なにそれ。私たち学年違うよ? それに奏は受験で忙しいじゃん」
「生徒会長やってんだぜ? 内申点だけでほとんど進学は決まってるようなものだよ」
「わ、いつもの悪い奏だ」
「だろ。それに学年違うから内容被っててもバレない」
「で、何するの?」
「んなの、適当でいいよ。僕の住んでる街とかさ。そしたら色々回れるだろ?」
「あ、それいいね」
「じゃあそうしよ。なぁ、さゆはさ。俺といる時は病気のこととか辛いこと、全部忘れていいよ。昔みたいに楽しもう」
「うん、忘れる! 嬉しい!」

外から車の音が聞こえた。
じゃあ、おばさん帰ってきたね。
挨拶して帰るわと奏は笑った。

「また来るよ」
「うん……」
「さゆ、俺はそばに居るよ」
「うん……ありがと」

またね、と言われてまたねと返す。
そんな当たり前のことが、すごく久しぶりに感じた。