ソレが出て来る話を聞かないでください

そして次の瞬間には滑るようにこちらに向かってきていたのです。

「イヤアアアア!!」
自分の口から信じられないほど大きな悲鳴がほとばしり、気がついたらソレがいるのとは逆方向の廊下へ駆け出していました。

悟志に手を握りしめられたまま、ふたりして最寄りの男子トイレに駆け込み、個室に入って鍵をかけました。

それでも安心はできません。

いつソレがトイレに入って来て個室の上から覗き込んでくるのではないかと、気が気ではありませんでした。

悟志も同じだったようで、私の体を両手できつく抱きしめたまま動けずにいました。

それから10分、20分と時間が経ってようやく胸の鼓動が落ち着いてきたとき、悟志が私から身を離しました。

「今の、なんだよ」
カラカラに乾燥した声で悟志が聞いてきました。

私は何度も深呼吸を繰り返して「わからない。でも、追いかけて来たよね」と、言いました。

私の言葉に悟志は目を大きく見開いて「追い掛けてきた?」と聞いてきます。
「うん。スーて滑るみたいに追いかけて来た。絵里も、追いかけて来るって言ってた」

「俺にはそんな風には見えなかったけど……」
もう、なにがなんなのかわかりません。