ソレが出て来る話を聞かないでください

どうして咄嗟にそうしたのかわかりませんが、私は記事で読んでいたソレの名前を呼んだんです。

母親から名前を呼ばれなくなった少女。
自分の名前を忘れてしまった少女。

１秒、２秒と目を閉じていてもソレの手が私の首にかかることはありませんでした。

そっと目を開いてみると、そこには薄暗い部屋があるだけでソレの姿はありません。

「消えたんだね！？」
喜んで振り向くと、悟志が唖然とした様子で立ち尽くしていました。

その視線はなにもない空間を凝視しています。
「消えた？　なに言ってるんだ。まだそこにいるじゃないか！」

悟志が指さした空間には、やはりなにもありません。
「うそでしょ？　もうなにもいないよ？」

何度確認しても、私にはもう、なにも見えなかったんです……。