ソレが出て来る話を聞かないでください

「ありがとう、大丈夫」

そう答えてスマホのライトで周囲を照らしてみると、あちこち床が落ちていることがわかりました。

天井も剝がれてきています。

屋内にいるのに外と同じ草木の匂いが漂ってくるのは、ここがもう半分山に戻っているからでした。

「こっちがリビングだ」
足元に気を付けながら右手の襖を開けてみると、そこには大きな窓がありました。

太いカーテンレールもそのまま残されていて、一瞬だけ家族4人が首を吊っていたという映像が脳裏をかすめました。

その想像を慌ててかき消し、ライトでリビングを照らしました。
リビングといってもその部屋も和室で、カーテンの下の床には黒いシミが4つついていました。

本当にここで事件が起きたんだ。
そう思うと急に気分が悪くなりました。

頭が痛くて吐き気がします。
すぐに外へ出たいのに、足がなにかに捕まれているように動きません。

「彩音、行こう」