守護王の最愛~運命を壊す禁断の恋は、祝福の淡雪を降らせる~

「はあ……はあ……はあ……」

 私は夜の闇の中、ひたすら都の外れにある町屋の間を駆ける。
 もう何十分走ったのだろうか。
 いや、もしかしたら数分にも満たない短い時間なのかもしれない。
 それでも、十歳ほどの細い私の足は限界を迎えていた。

「ぐああー!!」

 犬でもない猫でもない。
 禍々しい何か怖い「それ」は、狼のような速さで私に襲い掛かって来る。

「んぐ……」

 私は裏道に入り込んで木樽を転がして相手の行く手を阻みながら、必死に前へ前へ走った。
 なるべく細い道を選んで、大きな体の「それ」に捕まらないように逃げる。

 なんとか闇に包まれた家の軒先に隠れ、小さく体を縮こませながら息を殺す。
 うまく逃げられたのか、私を見失った「それ」の気配が消えた。

 視線だけを動かしながら周りを確認する。
 やがて、私の心臓の音が少し鳴りやんだその時、「それ」は突然現れた。

「ぐおおおー!」

 私を見つけて雄たけびをあげた「それ」は私に手を伸ばしてくる。

「やだっ! 来ないでっ!!」