はるけき きみに  ー 彼方より -

 向こうの隅で、徳三と紫音がなにかを話している。
 そんな様子をマシューが見ていた。

「もしかして、気になるのかい」
 サジットがニヤリと笑った。

「ば、ばかな、気になるなどと」
「気持ちはわかるよ。あんな暗闇で話しているし、いやに親密そうじゃないか」
「・・・・」

 その徳三がこっちにやって来る。そして、
「悪いが俺はここで失礼するよ」

「なんだって」
「この近くに知り合いがいるんだ、下乃浜まで魚を買い付けに来る男だ。今夜はそこに厄介になるよ」

 と、また紫音に向いて、
「俺に用があったら奴に言づけてくれ。魚屋をやっている喜助って男だ。しょっちゅう下乃浜に来るから伝言が届く。そしたらすぐにとんで来てやるよ」

 そう言うと返事も待たず背を向けた。
 肩を怒らせたように、それでいてどこか気落ちしたように歩いていく。

 そしてたちまち闇に消えた。

 サジットが小声で、
「なんとなくわかる気がするな」
「わかるって、何がわかるんだ?」

「あいつの気持ちだよ、徳三の胸の内だ。たぶん付け入る隙がないと思ったんだろうな」
「・・え?」
「お前相手にだよ、かなわないと思ったんだ、彼は」
 意味ありげににやけている。

「なにをバカな」
 サジットを睨んだ。