はるけき きみに  ー 彼方より -

「そういう経過があったのです」
 石川が座敷の皆を見渡した。

 紫音がはっとして、
「それは・・、あなたが斉極屋と出会ったのは、あの廃墟の倉庫から娘が解放されたときよね」
「そうです。それで、自分の娘も救い出されたのではと斉極屋が駆け付けて来たのです」

 だが、その中にはいなかった。
 落胆した徳兵衛に石川が声をかけたという次第だった。

「あのときの徳兵衛はひどく憔悴していました。その様子は目に余るものがあって」

 あたりは無事な娘を迎えて安堵する親たちだ。
 そのなかで置き去りにされたかのようだった。

 しかし気落ちしながら徳兵衛の目は死んではいなかった。
 凛とした奥底に燃えるような意思を感じた。

「彼はこの街きっての豪商です、娘の不在が長引けばこの先どうしようとするのか」
 そう言って言葉を選ぼうとした。
「・・その、なんというのか、自分は武士ではあるのですが、あの商人に気圧されるものを感じたのです」

 役人でもある彼は、町人の徳兵衛より当然身分は上だ。
 だが立場を超えて畏怖するものがあるように感じた。