はるけき きみに  ー 彼方より -

「それは・・」

 と石川がマシューを見た。

「この間の夜、あの廃墟の倉庫から多鶴をはじめ娘たちを救い出したね。そのときは家族に娘の無事を伝えて迎えに来させたのだが・・。その中に一人事情が違った親がいたのだ」
「事情が、違った?」

「その男の娘も菱屋にさらわれたのは確かだった。だがあのとき解放された中に彼の娘はいなかったのだ」

「え? 誰なのですか、その親とは」
 紫音が聞く。

  石川は紫音に視線を移して、
「大店の主人です。斉極屋(さいごくや)という名はご存じですか。刀や甲冑、最近は鉄砲まで扱い始めた豪商です。話を聞くと、その斉極屋の娘もとらわれているのです。しかも長女と次女の二人なのです」

 彼は姿勢を正している。
 その謙虚な話し口をマシューは面白げに見ていた。

 元上司の娘である詩音には敬意を払っている。
 かたや異人である自分とは、と思った。はっきり境界をつくっているのだ。