はるけき きみに  ー 彼方より -

「でもね」
 それを破ったのはやはり紫音だった。
「私は香苗とそして丹波の子供よ。それ以外あり得ないわ」
「・・・・」

「あんなに大事に育ててもらったんですもの。母との接触は短かったけど、でも母は私のことで命を絶ったともいえるでしょう?」
「それは・・」

「だからこそおろそかに考えられないのよ。仲が良かったと言われている父と母、その二人を窮地に陥れた問題の男、それが誰であれ許せないわ」

 正面からマシューに向いた。
「率直に言うわね。もしかして、万が一私はその男の子供かもしれない、そんな可能性があるのかもしれない」
「・・・・」

「でも絶対そうじゃないと思いたい、そんなものに駆られている。父は優しかったし私を十八の歳まで懸命に育ててくれたわ。だから私は丹波の子なのよ」
「そうだね」

「それでいて心の中に残ったものがあるの」
「・・・・」

「それは、二人の、父と母の・・できれば無念を晴らしたいと。そんな思いがくすぶっているの。くすぶり続けているのよ、この胸の中で。おかしいでしょう」

 紫音はわらっていた。

 そんな彼女を、いくつもの案山子が見つめていた。
 大口を開けて笑いながら、なにかに向いて怒りながら、眉根を寄せて泣きそうになりながら。


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