十月に入るとすっかり空気は冷たさを含み、スーパーでは秋刀魚や柿が多く売られるようになってきた。

スーツを着た神無月風雅(かんなづきふうが)は会社へと急ぐ。社会人三年目、ようやく仕事に慣れてきた。

ふと顔を上げると、目の前にある紅葉が赤くなり始めていた。赤く色付く葉っぱを見ると、秋が来たんだなと思う。風雅が紅葉を見ていると、肩をポンと叩かれた。

「風雅くん、おはよう!」

艶のある長めの黒髪に、白いブラウスとチェック柄のスカート姿の女性が笑顔で話しかけてくる。その女性を見た刹那、風雅の胸が高鳴った。女性の頰も紅葉のように赤くなっていく。

「おはよう、菫」

秋麗菫(しゅうれいすみれ)は風雅と同じ会社の同期であり恋人でもある。そしてーーー。

「風雅、ネクタイ曲がってる」

菫が風雅の胸元に手を伸ばす。そして風雅の曲がった赤いネクタイを直した後、「Perfect!」と発音のいい英語で言った後、風雅の頭を撫でた。風雅の顔がさらに赤くなる。

「菫!俺、子どもじゃないんだから!」

「あら、子ども扱いじゃないわ。彼氏扱いよ」