「お帰りなさいませ。レリウス様、ベリック様」

 レリウスたちが屋敷に入ると、玄関の内側で執事やメイドたちが勢揃いして挨拶をする。

「ああ、戻った。急で悪いが、こいつを風呂に入れてやってくれ」
「人間、ですか?」
「ああ、俺が親父からもらった。入念に手入れしてやってくれ。じゃあな、ライラ。また後で」
「えっ?」

 レリウスが手をひらひらさせて立ち去ると、ポカンとしたライラがメイドたちに囲まれてあれよあれよと言う間に浴槽まで運ばれる。入浴は自分でできると言い張ったが、メイドに却下され、入念に手入れをされてしまう。

(すごくいいお湯だった!花びらが浮かんでいて、あんなにいい匂いのするお湯はじめてでびっくりしちゃった)

 頬をほんのり赤く染めながらほくほくと嬉しそうにしているライラを見て、メイドは嬉しそうに微笑んだ。

「ライラ様、傷口にお薬を塗りますね、少し沁みるかもしれませんが」
「えっ、あ、ありがとうございます」

 体のあちこちにある傷を見てメイドは一瞬顔を顰めたが、ライラに気づかれないようすぐに笑顔になってライラの傷口に薬を丁寧に優しく塗っていく。

(こんなに丁寧に扱われたことないからどうしていいかわからない……でも、すごく嬉しい)

 そうして、湯浴みを済ませたライラは綺麗なドレスを着せられ、いつの間にかまたレリウスの前にいた。

「お、いい感じになったな」
「あの、いろいろとありがとうございました」

 戸惑いつつも嬉しそうにお礼を言うライラを見て、レリウスはフッと微笑む。

「それで、私はこれからここで何をすればいいですか?炊事、洗濯、家事全般はひととおりこなせますし、裁縫もできます。それから……」
「いや、別になにもしなくていい」
「へ?でも、こんなに色々なことをしてもらって、生贄にもならないで、私は一体……」

(何もしなくていいわけがない、何かしなければ私の価値なんてここにはないのに)

 不安そうな顔でレリウスを見つめるライラに、レリウスは静かにため息をついて言った。

「いいか、何かをするにしても、お前は瘦せすぎだ。もっと健康的になれ。お前の使い道はそれから決める。それまでは、美味しいもんをちゃんと食べて、よく寝て、よく笑え。お前のすることはまずそれだ」