(あの小娘、手はボロボロだしあまりにも細すぎだ。人間族め、バカにしやがって、あれで王女なわけないだろうが)

 レリウスは王城内にある自室に戻ってからライラとの会話を思い出していた。
 ライラの手首を掴んだ時、あまりの細さに驚いた。手はあかぎれでボロボロ、体も服でごまかしているが明らかにガリガリだ。まるで何かを隠しているかのようだ。

(早急に素性を明らかにして王に報告してやる)

「ベリック」
「はっ」

 ドアの側に立っていた側近ベリックは、よく通る声で返事をしお辞儀をする。長めの銀髪を一つに束ね、洗練された動きでレリウスの近くへ歩いていく。

「あの女の素性をもう一度徹底的に調べてあげろ。あれで王女なわけがない。どこかの待遇の悪い侍女かなにかに違いないからな。もしくは奴隷という可能性もある」
「かしこまりました。明日には報告できるようにします」

 そう言って深々とお辞儀をすると、ベリックは部屋を出ていった。

「待っていろよ、人間族。狼人族をバカにするとどうなるかわからせてやる」

 指をパキパキっと鳴らしてレリウスは不敵に笑った。それから、一瞬だけ真剣な顔になり、何かを思い出したように宙を見つめる。

(あの娘、ほんの少しだけ何かいい香りがした気がするが……いや、そんなはずはないな)





「侍女でも奴隷でもない?」

 翌日、レリウスはベリックからの報告を聞いて声を荒らげた。

「はい。正真正銘の第二王女でした。血筋も確認済みです」
「そんな馬鹿な……だったらなぜあんなに痩せ細り手はボロボロなんだ、おかしいだろ」
「そのことですが、彼女はどうやら国で酷い扱いを受けていたようです」
「酷い扱い?」

 レリウスが眉を顰めて聞き返すと、ベリックはふぅ、と静かに深呼吸してレリウスを見つめる。

「彼女は第二王女にも関わらず、侍女のように働かされ、ご飯もろくに与えられず、屋根裏部屋で生活させられていたようです」