馬車から降りたライラを見て、レリウスは黒い狼の姿から人間の姿に変身した。

「ライラ!どうして屋敷から黙って出ていったんだ」
「レリウス様……私はもうあなたと一緒にいるのは嫌になりました」
「は?」
「私はレリウス様のことが嫌いです。だから、もう私のことは放っておいてください」

 そう言って小さくお辞儀をすると、ライラはまた馬車に乗り込もうとする。だが、レリウスがそれを阻止した。

「だめだ、おい、お前たちは屋敷に戻れ」

 レリウスが馬車を引く狼たちにそう言うと、狼たちはライラに申しわけなさそうに頭を下げて、屋敷の方へ戻っていった。

「俺を嫌いってどういうことだ」
「そのままの意味です。一緒にいたくないんです。だからレリウス様も私のことを嫌いになってください」
「何を言ってるんだ、そんなこと」

 レリウスがライラの腕をとってライラを引き寄せるが、ライラはレリウスの顔を頑なに見ようとしない。ライラのストロベリーピンクの髪がふわりと靡いてライラの顔を隠す。

「お願いです。レリウス様は私が(つがい)なのは嫌でしょう?私のことを嫌いになってくだされば、お互いに嫌いになれば、番は解消されるそうです。そうすれば、レリウス様は人間族の私ではなく、狼人族の御令嬢と番になれます。だから、私のことを嫌いになってください!」

 断末魔のような叫びを上げるライラを、レリウスはぎゅっと抱きしめた。ライラは身じろぐが、レリウスは絶対に放そうとしない。

「ライラ、そんなこと言うな。お願いだから、そんなこと言わないでくれ」
「嫌です、お願いだから、嫌いになって……!」
「だめだ、嫌いになんてなれない。俺は、ライラと番になりたくないわけじゃない」
「でも……」
「怖かったんだ。黒い毛並みの俺が人間族の番と一緒になったら、番であるライラまで色々言われてしまうかもしれない。王や王妃、兄たちは良くても、王家に長年仕える者の中にはきっとライラをよく思わない連中がいる。そいつらに、ライラが何か言われてしまうのが嫌なんだ。ライラがせっかく楽しく過ごしている生活が、世界が、そんな奴らに脅かされるのが嫌なんだよ。だったら、番になどならずに今のまま、ライラが笑って暮らせるようにと、そう思った」

 ぎゅうっと力強くライラを抱きしめながら、レリウスは言う。

「でも、ライラが俺の前からいなくなるかもしれないと知って、もっと恐ろしくなった。この身が、まるで引き裂かれるように痛くて、辛くて、どうしようもなかった。ライラ、俺の側からいなくならないでくれ、嘘でも俺を嫌いだなんて言うな。お願いだから……!」
「レリウス様……」