ベリアルがレリウスたちの元を訪れた翌日。レリウスはいつもと様子が違うことに気が付いた。屋敷内でどこからともなく聞こえるライラの笑い声が聞こえない。いつもはメイドたちと楽しそうに笑っているのに、その声が聞こえないのだ。姿を探してみるものの、ライラの姿は何処にも見当たらない。

「ベリック、ライラの姿が見えないが、どこかに出かけたのか?」
「……ライラ様ならこの屋敷を出て行かれました」
「は!?」

 ベリックの返事に、レリウスは驚愕の眼差しでベリックを見る。だが、ベリックは表情を変えずに冷えた視線をレリウスに向けている。

「どういうことだ!」
「ライラ様はご自分がレリウス様の番にふさわしくないと思い、屋敷を出て行かれました」
「……は?そんな、出て行くって、他に行き場がないだろう!」
「恐らく、ベリアル様の元へ行かれたかと。人間族の国に戻るにしても、道案内が必要になりますので」
「そんな……!いつ出て行った!」
「つい先ほどです」

(今追えばまだ間に合うか!)

 レリウスは黒い狼姿に変身し、急いで屋敷を出てライラを追いかける。そんなレリウスの姿を、ベリックはやれやれという顔で眺めていた。



(どうしてだ、どうしてだ、どうしてだ!)

 真っ黒な狼は、ライラの匂いをたどって全速力でライラを追いかける。

(間に合ってくれ、お願いだ。何も言わないで出て行くなんてあんまりだろ!)

 胸が、今にも張り裂けそうだった。ライラが自分の番かもしれない、それは出会ったその日から匂いでなんとなく感じていたことだった。それでも、それを認めたくない、認めてしまってはいけないような気がして、ずっと見て見ぬふりをしていた。

 それなのに、こんなにも辛く、苦しいものだったなんて。ライラが側にいない、それだけでこんなにも身が、心が引き裂かれるような痛みに胸が苦しくなる。もう二度と会えなくなるかもしれない、そう思っただけで魂が悲しくて震えるようだった。

 前方に、馬車が見える。馬車と言っても引いているのは馬ではなく狼だ。レリウスは馬車の前に立ちはだかり、狼の姿で叫んだ。

ーーライラ!どうして黙って屋敷から出て行こうとする!

 止まった馬車から、ライラが神妙な面持ちで降りてきた。