とある日、ライラとその隣にいるレリウスの目の前には、第一王子のベリアルがいた。

「やあ。レリウスのおもちゃになった君は、確か人間族の……」
「えっと、ライラと申します」
「ああ、ライラ。ここの生活には慣れたかい?ちゃんとレリウスに可愛がってもらっている?」

 にっこりと微笑むベリアルは美しいセミロングの白銀色の髪をさらりとなびかせ、妖艶という言葉がぴったりだ。

「何しに来たんだよ」
「はは、相変わらずレリウスはそっけないな。そろそろお前にも(つがい)が必要なんじゃないかと思ってね、近々こちらにめぼしい令嬢を送ろうと思う。それを知らせに来たんだよ」
「はあ?番は自分でわかるもので、人から押し付けられるものじゃないはずだろ」
「でも、会ってみないことにはわかるものもわからないだろう?それとも、すでに番は見つけたのかな?」

 ベリアルはそう言って静かにライラを見つめる。その瞳は、何かを勘繰るかのようなそんな視線だった。

(え?どういうこと?)

 話の内容が全く見えないライラは、戸惑いながらベリアルを見つめ返す。

「……ライラは関係ないだろう」
「そうかい?レリウスも薄々感づいているものだとばかり思っていたけれど、違うのか。俺の嗅覚は間違っていないと思ったのだけれど……それとも、レリウスは人間族の番は嫌なのかな」
「……っ!」

 レリウスはベリアルを睨んでからライラの視線に気づき、すぐに目をそらす。

(何?一体何の話をしているの?)

 不安げなライラの目の前で、ベリアルはポンッと突然狼の姿に変身した。そして、ライラの顔に鼻を摺り寄せる。突然ふわふわな白銀色の狼に顔を摺り寄せられて、ライラは嫌がるどころか少し嬉しそうだ。

「う、ふふっ、ベリアル様、くすぐったいです」
「おい!ライラから離れろ」

 狼姿のベリアルから庇うようにレリウスが慌ててライラを引き寄せると、ベリアルはポンッと人の姿に戻って二人を見た。

「やっぱりそうじゃないか。ライラ、君はレリウスの番だ。匂いで分かる。唯一無二の香り、番はお互いにお互いの香りをほのかに纏っている。そしてその香りは混ざり合い、特別な香りになる。それは一緒にいるからではなく、生まれつきそういうものだ。父上もライラに出会った時にすぐにそれを感じ取った。だから父上は生贄としてではなく、レリウス、お前にライラを預けたんだろう」