ヴァンパイアに狙われています!〜運命は危険な出会い〜

まるで心の奥底まで見られているような感じ。
この人、怖い…!
「申し訳ありませんオーナー、私の仕事仲間でして。それで、ここに連れてきたのです」
私をかばうように、彩鈴ちゃんが前に出てくれた。
彩鈴ちゃんの言葉と同時に、オーナーさんの視線が変わった。
今はすごく穏やか。
「そうですか。これは失敬(しっけい)を。私はここのオーナーをしております。天辰海斗(あまたつかいと)と申します。よろしくお願いします」
そう言って軽く会釈をされた。
それから私も自己紹介をしようとする。
「は、初めまして…。私は——」
「彼女は雨宮穂果(あまみやほのか)といいます。すみません。最近魔界のスラムから拾ってきたもので」
え?
彩鈴ちゃんはいったい何を考えているの?
本当のことを言わない理由は何?
「そうなんですか。それは大変ですね。…穂果さん、ここで自分の情報を渡すというのがどれほど危険なことかわかりますか?」
「え…?」
「ここはあなたが思うほど甘い世界ではないのです。ここでは、自分を偽ること。それが自身を守る最大の防御(ぼうぎょ)です」
そう言ってオーナーさんは笑った。
とにかく、ここは話を合わせておいた方がよさそう。
「それでは。どうぞごゆっくり」
私達は会釈(えしゃく)をして、奥へ進んでいった。
そして、私は彩鈴ちゃんに問いかける。
「ねえ彩鈴ちゃん。どうして私の名前を偽ったの?それに、魔界のスラムから拾ったって言ったよね。どういうこと?」
彩鈴ちゃんはいつにもなく真剣な顔で言った。
「ここは裏社会だよ。周りはヴァンパイアだとか、マフィアや暗殺者達ばかり。貴女が“こっち”側じゃないってわかればどうなるかわからないよ」
その言葉にゾッとした。
それだけ恐ろしい世界に来ていたんだ。
「そうそう。だから、ここでは雨宮穂果になってね。いろいろ危ないから」
天音さんまでそんなことを言う。
そんな会話をしているうちに、随分と奥まで進んできたみたい。
奥は人が少なくて、部屋がいくつかあるみたい。
中から音は聞こえないけど、人はいないのかな?
そうして、彩鈴ちゃんがカウンターのところに立っている男の人のところに行った。
「こんにちは。VIP部屋に通してくれるかな?」
「ああ、双羽さん。いいぜ、通りな。それより、見ない顔だな嬢ちゃん」
私をじっと見て言ってくる。
私はぺこっとお辞儀をする。
「は、初めまして…!私は雨宮穂果っていいます。彩鈴ちゃんと天音さんの友達です!」
「おお、そうなんかい。じゃあ穂果ちゃんも入りな」
ガラの悪そうな人に見えるけど、意外と優しそうでよかった。
そうして、私達は1番奥の部屋に入った。
中に人はいなくてすごく静か。
大きな部屋だからなんだか寂しい感じ。
「夢乃ちゃんも座って!ここは防音室だから外に声はもれないし、監視カメラもついてないから快適だよ〜」
「う、うん!」
私は荷物をおろしてソファに座った。
すごく座り心地がよくて最高。
「それで、魔界のスラムについてだよね」
彩鈴ちゃんが私の前のソファに座って言った。
「魔界のスラムは人間界のスラムよりひどいところなの。とても生活できたものじゃなくてね…」
「でも、それを利用して裏社会に連れてきて養子にしたりするんだよね〜。だから、ゆめちゃんの情報を偽装するのにちょうどよかったってわけ」
「な、なるほど…」
私はなんとか理解しながらふたりの話に追いついていった。