ピピピ、ピピピ。
アラーム音が聞こえて、私は目を覚ます。
目を開けると、目の前にはきれいなツキの顔があった。
驚いて眠気なんてものは一瞬で吹っ飛ぶ。
「へあっ?!」
な、なななんでツキが私と寝てるのよ!?
もしかして、昨日のって夢じゃない…?
昨日のツキとのやりとりを思い出して、顔が赤くなる。
思い出したらなんだか気まずくなってきて、ツキに背を向ける。
ありえない、私があんなことを口にするなんて。
それに、年頃の男女なのよ?
別にツキとは何もやましいことはないし、お互いに恋愛感情なんてない…はず。
なんで受け入れてくれたの?
もしかしてツキって私がす——いや、そんなはずない!!
あたふたしていると、ツキの声が。
「何やってんの?」
不思議なことに、後ろからツキの声が聞こえた気がする。
さっき見た時には寝ていたはずだし、そんなことはないだろうけど。
そうだ、きっとそう幻聴だ。
私はそう思うことにしたが。
「無視すんなよ」
不機嫌そうな声が聞こえてから、背中を誰かにつんつんとされた。
「ひゃあ?!む、無視なんてしてないわよ!」
やっぱり幻聴じゃなかったみたいだ。
だってほら、振り返るとツキがしっかりと目を開いて私を見ている。
じっと見つめてくるので、なんだか気まずい。
「えっと…昨日はその、ごめん…」
恥ずかしくてツキから目を逸らした。
だって、私から「一緒に寝てほしい」言ってしまったのだから。
いつものように平常心なんて、絶対保てない。
絶対に変な顔をしてしまう。
その時、頭にツキの手がぽんとのっかった。
それから何事もなかったかのようにこう言った。
「別にいいよ。それより、早く準備しよ」
ツキはベッドから降りて、おそらく準備をするために部屋から出ていった。
ありがとう、ツキ。
きっと気遣ってくれたのだ。
ずっと変に気にしていてもただただ気まずいだけで嫌なので、もう気にしないことにした。
「よーし!私も準備しよ!」
***
ツキ・メアは雨晴華恋の部屋を出てから、深呼吸をする。
「こっちの気も知らないで…」
さっきの華恋の顔を思い出して、くすっと笑う。
「まぁいっか。俺だけがあの顔を見れたなんて最高だよね」
ツキは、華恋のことを絶対に振り向かせたいのだ。
***
私はいつものように、まず顔を洗いに行こうと部屋を出た。
1階に降りてすぐ近くのドアを開く。
そこにはすでに先客がいた。
朝からこいつには会いたくなかった、ましてやこんな格好の奴に…。
「おはよー華恋。顔でも洗いに来たの?」
“先客”というのはユウで、お風呂から上がったところだったよう。
半裸の状態でそこに立っていた。
濡れた髪をタオルで拭きながら、私の方へ歩いてくる。
「その状態で近寄ってこないで。今止まらないなら…斬るよ?」
着ているパジャマから刀を出した。
この刀は羅華に作ってもらったもので、3等分に折りたたんで簡単に持ち歩ける。
護身刀ということで、いつもどんな時にでも持っている。
私は銃、刀、短剣どの武器でも使いこなせることから“最強のマフィア”なんて言われている。
ユウもそのことはわかっているだろう。
でも、ユウが本気を出せば私は敵わないかもしれない。
戦ったことがないのでわからないが。
まあ、これは単なるおふざけだ。
もちろん、これ以上近づいてきたら腕でも切り落とそうと考えているが。
「あれー?そんなことしていいの?」
「…。斬っていい?それか、ユウとは一生話さないって方がいいかな?」
私は笑顔でユウに言った。
あぁ…なんというか、キレそうだ。
さっきまでおふざけだったのに。
「それは嫌だからやめるわー。結婚してもらえなかったら嫌だし」
ユウはいつも意外とあっさりやめるのだ。
理由は本人いわく「華恋と結婚できなくなりそうだから」だそうだ。
どちらにせよユウと結婚する気はないが。
ユウもこんな私がお気に入りなんて、物好きなものだ。
「はいはいそうですねー。全く、ユウも早く準備しなさいよ」
私は呆れたようにユウに注意する。
「はーい」
ユウはそのまま半裸の状態で出ていった。
朝から体力を使ってしまった、最悪な時間だった。
***
顔を洗い終わって部屋に戻り、制服を着る。
スカイ学園は男子の制服はかっこいい、女子の制服はかわいいということから、実はとても人気がある。
制服は選択制で、男子は紺色か白色の制服、女子は水色か桃色の制服だ。
私は桃色を選択したので、白色のワイシャツには桃色のチェック柄のリボンがついているもの。
少しもこもこのスカートは膝上の長さで、これもチェック柄の桃色。
今は6月なので、上着は着ないことにする。
そろそろ出ないとね。
9時に朝のホームルームが始まる。
今は8時30分なのでまだ大丈夫だが、遅刻は絶対にしたくないので早めに出ることにする。
私はカバンを持って部屋を出た。
***
寮を出て15分くらいで教室に着くことができた。
みんな普段ギリギリに来ているようで、真白以外の生徒はまだ来ていなかった。
とても夢中になって読書をしているせいで、真白はまだ私に気がついていない。
だから、私から声をかけることにした。
「ごきげんよう、真白」
「ん?ああ、雨晴か。おはよ」
「ええ。ところで、何をしているの?」
真白の机には教科書、ノート、筆箱が置いてあり、手には本がある。
ついさっきまで勉強をしていたようにも見える。
おそらく今は読書をしていたのだとは思うが…。
「読書だよ。ミステリー系をよく読むけど、今読んでいるのは恋愛系だよ」
「へー。周りに恋愛系小説を好きな男子がいないから、嬉しいわ。…隣、座っていい?」
真白の隣を“ここ”と指差して尋ねる。
私の周りに小説が好きな人は瑠璃華とサクくらいで、サクはホラー系ばかりだった。
だからか、なんだか新鮮だ。
「もちろん。ちなみに言うと、君の席は僕の隣だよ。ペアだからね」
そうだった。
この学園は席はずっと同じで、ペア同士はクラスは3年間一緒、席も隣で部屋も隣だったはずだ。
つまり、私達の右隣の寮部屋が真白で、左隣の寮部屋はユウのペアの子の部屋ということだ。
ユウは学年も違うのでペアの子と会うことはできないだろうと思っていたが、寮部屋が隣なら会えるかもしれない。
「そうだったわね。じゃあ失礼するわ。それで、何の本を読んでいたの?」
私が聞くと、真白は目をキラキラさせながら本を見せてくれた。
よほど今読んでいる本が好きなのだろう。
「これだよ。『境界線』って本で、僕のお気に入りなんだよ」
「それ!私も好きなの!!」
私も大好きだったもので、思わず食いついてしまう。
「境界線」は少女と少年の身分差を題材としたもので、近くにいるのに想い合っているのに…身分差で結ばれることができない。
そんな切ない物語で、最後は困難を乗り越えて無事に結ばれてハッピーエンドを迎える。
そんな、私の大好きなお話。
まさかこの本を好きと言う人に会えるなんて。
「君も好きなの?うれしいなぁ」
ふふっと笑った顔は優しくて、不覚にもドキッとしてしまった。
ピコン、ピコン。
ピコン、ピコン。
いきなり、学校から支給されたスマホの警報のようなアラーム音が鳴った。
それも、真白と私同時に。
気になって確認をすると、“停止」”いうボタンがあったので思わず押してみる。
すると、今度は音声が流れ始めた。
「クエスト発生、クエスト発生。生徒達は直ちに指定された場所へ向かえ。報酬は100ポイントの付与。繰り返す——」
「なによこれは?!」
突然のことに戸惑い焦っている私とは正反対に、真白はとても落ち着いていた。
いや、それより楽しみが勝っているようにも見える。
嬉しさを抑えているような気がする。
「クエスト発生だって。ああ、雨晴には簡単に説明しておかなくちゃね。クエストは、ペアで街で起こった事件を解決するんだ。そうすると、探偵ライセンス取得用のポイントをもらえるんだ。ちなみに、僕達の現在ポイントは4万くらいだよー」
落ち着いているというより、やはりこの状況を楽しんでいるかのような感じだった。
それに、真白は今「街で起こった事件を」と言った。
つまりこれは実践授業。
転校生に何も知らせないなんて、ちょっとひどい学園だ。
真白がペアじゃなかったらすごく困っただろう。
まあ、そういうところも資格を試されているのだろうが。
真白は「続きは行きながら」と言って、急足で教室から出ていった。
急いでいるというのなら、ペアである私が足を引っ張らないようにしなくちゃと私も後を追う。
「初めから説明してちょうだい。私、何も聞かされていないの」
「おっけー。あ、じゃあちょっと走れる?多分もう下に車が用意されてるから」
「く、くるまぁ?!」
この学園には車まで用意されてるのかと驚いた。
さすが探偵養成学校…、恐るべし。
門の方を見ると、確かに紺色の車が止まっていた。
けれど、私達は17歳でまだ免許を持てない年だ。
ならば誰が運転するのか。
私は一応車は運転できるが、真白は私が裏社会の人間であることを知らない。
消去法でいくと真白が残るが、真白が運転するのだろうか?
外に出て早々「車に乗って、早く!」と背中を押されながら言われた。
「わかったから…!それで?貴方が運転するのかしら?」
「んー?違うよ?そんなわけないじゃん」
言っていることとは裏腹に、真白は運転席に座った。
それから誰に向かってなのか。
「クエスト場所まで走って」
『了解しました』
そのAIらしき声と共に、車は走り出した。
どうやらこの車は自動運転だったらしい。
まあ、真白が運転するわけないか。
「それより!説明をしてちょうだい」
行きながら説明すると言われた事を早く聞きたくて言う。
「あぁ、そうだったね。…まず、この学園の授業はほとんどが実践学習なんだ。ホームルームが始まる15分前になっても、僕達以外誰も来なかったのもこれが原因さ」
たしかにホームルームがもうすぐ始まるってのに、私達以外来ないのはおかしい。
でも、実践授業ばかりだからといってそれが理由にはならないと思う。
「普段は貴方しかいないの?でも、昨日は全員いたわよね?」
「普段は…まあ、大抵クラスの半数はいるよ?昨日は転校生がくるからってみんな出席していただけだよ」
クラスの半数しかいないというのも大丈夫かと疑うがな。
この学園ではこれが普通なようだ。
「出席日数は成績に影響しないんだ。テストでいい点を取れるか、実践授業でどれだけポイントを稼げるかが重要なんだよ」
ポイントというと、おそらく“報酬”のことだろう。
この学園から探偵ライセンスを取るのにポイントが必要なのは知っている。
必要なのはたしか…7万ポイント。
「ポイントの方はみんな大丈夫なの?3年間で稼がなくちゃなんでしょう?」
「それなら大丈夫だよ。この学園はあんまり学年は関係ないんだ。次の学年に上がるのは3万ずつポイント必要なんだ。何年かけたって構わないはずだよ」
なるほど。
学年は年齢別というわけではなく、ポイントによって分かれているのか。
そうなると、私達の他に最低でも59人は既に3万ポイント持っている人がいるということだ。
「ちなみに、毎回ミッションは順番に4ペアが選ばれる。1番早く片付けないと報酬は貰えないから、さっさと片付けよう」
「そんな楽しそうに言わないでちょうだい…」
とても楽しそうに生き生きと言うものだから、ちょっと怖い。
『目的地に着きました』という声が聞こえて、停車する。
「さっ、着いたよ」
「ええ…」
ここから、私達の最初の実践授業が始まっていく。
アラーム音が聞こえて、私は目を覚ます。
目を開けると、目の前にはきれいなツキの顔があった。
驚いて眠気なんてものは一瞬で吹っ飛ぶ。
「へあっ?!」
な、なななんでツキが私と寝てるのよ!?
もしかして、昨日のって夢じゃない…?
昨日のツキとのやりとりを思い出して、顔が赤くなる。
思い出したらなんだか気まずくなってきて、ツキに背を向ける。
ありえない、私があんなことを口にするなんて。
それに、年頃の男女なのよ?
別にツキとは何もやましいことはないし、お互いに恋愛感情なんてない…はず。
なんで受け入れてくれたの?
もしかしてツキって私がす——いや、そんなはずない!!
あたふたしていると、ツキの声が。
「何やってんの?」
不思議なことに、後ろからツキの声が聞こえた気がする。
さっき見た時には寝ていたはずだし、そんなことはないだろうけど。
そうだ、きっとそう幻聴だ。
私はそう思うことにしたが。
「無視すんなよ」
不機嫌そうな声が聞こえてから、背中を誰かにつんつんとされた。
「ひゃあ?!む、無視なんてしてないわよ!」
やっぱり幻聴じゃなかったみたいだ。
だってほら、振り返るとツキがしっかりと目を開いて私を見ている。
じっと見つめてくるので、なんだか気まずい。
「えっと…昨日はその、ごめん…」
恥ずかしくてツキから目を逸らした。
だって、私から「一緒に寝てほしい」言ってしまったのだから。
いつものように平常心なんて、絶対保てない。
絶対に変な顔をしてしまう。
その時、頭にツキの手がぽんとのっかった。
それから何事もなかったかのようにこう言った。
「別にいいよ。それより、早く準備しよ」
ツキはベッドから降りて、おそらく準備をするために部屋から出ていった。
ありがとう、ツキ。
きっと気遣ってくれたのだ。
ずっと変に気にしていてもただただ気まずいだけで嫌なので、もう気にしないことにした。
「よーし!私も準備しよ!」
***
ツキ・メアは雨晴華恋の部屋を出てから、深呼吸をする。
「こっちの気も知らないで…」
さっきの華恋の顔を思い出して、くすっと笑う。
「まぁいっか。俺だけがあの顔を見れたなんて最高だよね」
ツキは、華恋のことを絶対に振り向かせたいのだ。
***
私はいつものように、まず顔を洗いに行こうと部屋を出た。
1階に降りてすぐ近くのドアを開く。
そこにはすでに先客がいた。
朝からこいつには会いたくなかった、ましてやこんな格好の奴に…。
「おはよー華恋。顔でも洗いに来たの?」
“先客”というのはユウで、お風呂から上がったところだったよう。
半裸の状態でそこに立っていた。
濡れた髪をタオルで拭きながら、私の方へ歩いてくる。
「その状態で近寄ってこないで。今止まらないなら…斬るよ?」
着ているパジャマから刀を出した。
この刀は羅華に作ってもらったもので、3等分に折りたたんで簡単に持ち歩ける。
護身刀ということで、いつもどんな時にでも持っている。
私は銃、刀、短剣どの武器でも使いこなせることから“最強のマフィア”なんて言われている。
ユウもそのことはわかっているだろう。
でも、ユウが本気を出せば私は敵わないかもしれない。
戦ったことがないのでわからないが。
まあ、これは単なるおふざけだ。
もちろん、これ以上近づいてきたら腕でも切り落とそうと考えているが。
「あれー?そんなことしていいの?」
「…。斬っていい?それか、ユウとは一生話さないって方がいいかな?」
私は笑顔でユウに言った。
あぁ…なんというか、キレそうだ。
さっきまでおふざけだったのに。
「それは嫌だからやめるわー。結婚してもらえなかったら嫌だし」
ユウはいつも意外とあっさりやめるのだ。
理由は本人いわく「華恋と結婚できなくなりそうだから」だそうだ。
どちらにせよユウと結婚する気はないが。
ユウもこんな私がお気に入りなんて、物好きなものだ。
「はいはいそうですねー。全く、ユウも早く準備しなさいよ」
私は呆れたようにユウに注意する。
「はーい」
ユウはそのまま半裸の状態で出ていった。
朝から体力を使ってしまった、最悪な時間だった。
***
顔を洗い終わって部屋に戻り、制服を着る。
スカイ学園は男子の制服はかっこいい、女子の制服はかわいいということから、実はとても人気がある。
制服は選択制で、男子は紺色か白色の制服、女子は水色か桃色の制服だ。
私は桃色を選択したので、白色のワイシャツには桃色のチェック柄のリボンがついているもの。
少しもこもこのスカートは膝上の長さで、これもチェック柄の桃色。
今は6月なので、上着は着ないことにする。
そろそろ出ないとね。
9時に朝のホームルームが始まる。
今は8時30分なのでまだ大丈夫だが、遅刻は絶対にしたくないので早めに出ることにする。
私はカバンを持って部屋を出た。
***
寮を出て15分くらいで教室に着くことができた。
みんな普段ギリギリに来ているようで、真白以外の生徒はまだ来ていなかった。
とても夢中になって読書をしているせいで、真白はまだ私に気がついていない。
だから、私から声をかけることにした。
「ごきげんよう、真白」
「ん?ああ、雨晴か。おはよ」
「ええ。ところで、何をしているの?」
真白の机には教科書、ノート、筆箱が置いてあり、手には本がある。
ついさっきまで勉強をしていたようにも見える。
おそらく今は読書をしていたのだとは思うが…。
「読書だよ。ミステリー系をよく読むけど、今読んでいるのは恋愛系だよ」
「へー。周りに恋愛系小説を好きな男子がいないから、嬉しいわ。…隣、座っていい?」
真白の隣を“ここ”と指差して尋ねる。
私の周りに小説が好きな人は瑠璃華とサクくらいで、サクはホラー系ばかりだった。
だからか、なんだか新鮮だ。
「もちろん。ちなみに言うと、君の席は僕の隣だよ。ペアだからね」
そうだった。
この学園は席はずっと同じで、ペア同士はクラスは3年間一緒、席も隣で部屋も隣だったはずだ。
つまり、私達の右隣の寮部屋が真白で、左隣の寮部屋はユウのペアの子の部屋ということだ。
ユウは学年も違うのでペアの子と会うことはできないだろうと思っていたが、寮部屋が隣なら会えるかもしれない。
「そうだったわね。じゃあ失礼するわ。それで、何の本を読んでいたの?」
私が聞くと、真白は目をキラキラさせながら本を見せてくれた。
よほど今読んでいる本が好きなのだろう。
「これだよ。『境界線』って本で、僕のお気に入りなんだよ」
「それ!私も好きなの!!」
私も大好きだったもので、思わず食いついてしまう。
「境界線」は少女と少年の身分差を題材としたもので、近くにいるのに想い合っているのに…身分差で結ばれることができない。
そんな切ない物語で、最後は困難を乗り越えて無事に結ばれてハッピーエンドを迎える。
そんな、私の大好きなお話。
まさかこの本を好きと言う人に会えるなんて。
「君も好きなの?うれしいなぁ」
ふふっと笑った顔は優しくて、不覚にもドキッとしてしまった。
ピコン、ピコン。
ピコン、ピコン。
いきなり、学校から支給されたスマホの警報のようなアラーム音が鳴った。
それも、真白と私同時に。
気になって確認をすると、“停止」”いうボタンがあったので思わず押してみる。
すると、今度は音声が流れ始めた。
「クエスト発生、クエスト発生。生徒達は直ちに指定された場所へ向かえ。報酬は100ポイントの付与。繰り返す——」
「なによこれは?!」
突然のことに戸惑い焦っている私とは正反対に、真白はとても落ち着いていた。
いや、それより楽しみが勝っているようにも見える。
嬉しさを抑えているような気がする。
「クエスト発生だって。ああ、雨晴には簡単に説明しておかなくちゃね。クエストは、ペアで街で起こった事件を解決するんだ。そうすると、探偵ライセンス取得用のポイントをもらえるんだ。ちなみに、僕達の現在ポイントは4万くらいだよー」
落ち着いているというより、やはりこの状況を楽しんでいるかのような感じだった。
それに、真白は今「街で起こった事件を」と言った。
つまりこれは実践授業。
転校生に何も知らせないなんて、ちょっとひどい学園だ。
真白がペアじゃなかったらすごく困っただろう。
まあ、そういうところも資格を試されているのだろうが。
真白は「続きは行きながら」と言って、急足で教室から出ていった。
急いでいるというのなら、ペアである私が足を引っ張らないようにしなくちゃと私も後を追う。
「初めから説明してちょうだい。私、何も聞かされていないの」
「おっけー。あ、じゃあちょっと走れる?多分もう下に車が用意されてるから」
「く、くるまぁ?!」
この学園には車まで用意されてるのかと驚いた。
さすが探偵養成学校…、恐るべし。
門の方を見ると、確かに紺色の車が止まっていた。
けれど、私達は17歳でまだ免許を持てない年だ。
ならば誰が運転するのか。
私は一応車は運転できるが、真白は私が裏社会の人間であることを知らない。
消去法でいくと真白が残るが、真白が運転するのだろうか?
外に出て早々「車に乗って、早く!」と背中を押されながら言われた。
「わかったから…!それで?貴方が運転するのかしら?」
「んー?違うよ?そんなわけないじゃん」
言っていることとは裏腹に、真白は運転席に座った。
それから誰に向かってなのか。
「クエスト場所まで走って」
『了解しました』
そのAIらしき声と共に、車は走り出した。
どうやらこの車は自動運転だったらしい。
まあ、真白が運転するわけないか。
「それより!説明をしてちょうだい」
行きながら説明すると言われた事を早く聞きたくて言う。
「あぁ、そうだったね。…まず、この学園の授業はほとんどが実践学習なんだ。ホームルームが始まる15分前になっても、僕達以外誰も来なかったのもこれが原因さ」
たしかにホームルームがもうすぐ始まるってのに、私達以外来ないのはおかしい。
でも、実践授業ばかりだからといってそれが理由にはならないと思う。
「普段は貴方しかいないの?でも、昨日は全員いたわよね?」
「普段は…まあ、大抵クラスの半数はいるよ?昨日は転校生がくるからってみんな出席していただけだよ」
クラスの半数しかいないというのも大丈夫かと疑うがな。
この学園ではこれが普通なようだ。
「出席日数は成績に影響しないんだ。テストでいい点を取れるか、実践授業でどれだけポイントを稼げるかが重要なんだよ」
ポイントというと、おそらく“報酬”のことだろう。
この学園から探偵ライセンスを取るのにポイントが必要なのは知っている。
必要なのはたしか…7万ポイント。
「ポイントの方はみんな大丈夫なの?3年間で稼がなくちゃなんでしょう?」
「それなら大丈夫だよ。この学園はあんまり学年は関係ないんだ。次の学年に上がるのは3万ずつポイント必要なんだ。何年かけたって構わないはずだよ」
なるほど。
学年は年齢別というわけではなく、ポイントによって分かれているのか。
そうなると、私達の他に最低でも59人は既に3万ポイント持っている人がいるということだ。
「ちなみに、毎回ミッションは順番に4ペアが選ばれる。1番早く片付けないと報酬は貰えないから、さっさと片付けよう」
「そんな楽しそうに言わないでちょうだい…」
とても楽しそうに生き生きと言うものだから、ちょっと怖い。
『目的地に着きました』という声が聞こえて、停車する。
「さっ、着いたよ」
「ええ…」
ここから、私達の最初の実践授業が始まっていく。


