裏社会の私と表社会の貴方との境界線

「——と、いうことなの。この作戦でいいかしら?」
次の日、私は計画の参加者全員を集めて作戦を伝えた。
みんな少し考えた後、ゆっくりとうなずいた。
「いいみたいね。それじゃあ、この作戦で行くから当日はよろしくね」
そうして作戦会議を終えたのだった。
決行の日は2日後。
私もいろいろと準備をしないとね。
「雨晴」
「…真白?」
いつにもなく真剣な声色で私の名前を呼んだ真白。
いったい何?
「どうしたの?」
なんだか避けられるようなことが増えていたから、不審に思いながら私は冷静装って言った。
「計画とは関係ないんだけどさ、少し話でもしない?」
「…なんでこのタイミングで?」
私がそう聞くと、真白は微笑んだ。
まるで誤魔化すかのように。
「ただ話をしなくちゃって思っただけ。あ、そうだ。せっかくだからカフェテリアの温室のテーブルでお茶でもしようよ。雨晴は紅茶が好きでしょ?」
真白がそういうならいいか。
そう思って、私はうなずいた。
ーーーーー
私達は席について、紅茶をひと口飲んだ。
「雨晴はよくアールグレイ飲むよね。好きなの?」
「ええ、まあ。といっても、姉が好きだった影響だけどね」
そう言うと、少しだけ悲しそうな表情をした真白。
きっとあの話を聞いて、思うところがあったのだろう。
私は大好きだった姉と再会したものの、姉は変わり果てていた。
上品でまさに公爵家の跡取りとして相応しいレンカお姉様は、病弱で感情の欠けた反対の琉愛になってしまったのだから。
「雨晴はこの戦い、勝てると思う?」
「…さあ、わからないわ。でも、たとえ死ぬことになっても私は戦わなくちゃいけないの。真白も同じ気持ちでしょう?」
「そう…だね」
勝てる、勝てないなんて考えない。
ただひたすらに戦うのが、今回の人生だから。
最後まで全力で生きたいって思うの。
「ねえ、雨晴」
「なに?」
私が顔を上げると、真白の真剣な瞳と視線が合った。
「好きだよ。俺は華恋のことがどうしようもなく好きなんだ。だから、死ぬなんて考えないでね。ちゃんと生きて、この戦いを勝利で終わらせよう」
真白には決意という文字が宿っていた。
強い、真白は本当に強い。
私なんか不釣り合い。
でも、真白にそう言ってもらえるなら——。
「わかったわ。約束するから、真白もちゃんと生きて私の隣にいてちょうだい。死んだら許さないから」
真白に惹かれている。
自分でも薄々気がついていた。
だから、大好きな人には死んでほしくない。
自分を犠牲にしてでも。
そう思ってしまうのは、きっとよくないことだけど仕方がないの。
「うん、ありがとう。華恋とまたここで紅茶をゆっくり飲みたいからさ」
「くすっ、何よそれ。まったく、斗亜はよくわからないことをいうわね」
「っ…!今……」
真白が華恋というものだから、私だって名前で呼んでもいいでしょう?
好きな人に名前を呼ばれるのって特別な気分。
でもね、この戦争が終わるまでは貴方に思いは伝えられない。
まだ私達には裏社会の華恋と、表社会の乃亜という境界線があるのだから。
「今は斗亜って呼ぶわ。乃亜とは呼ばないわよ」
それでも、貴方は優しく笑ってくれたの。
タイムリミットが近づく。
わかっていた。
——私の命は絶対に18歳まではもたないと。