幽霊姫は止まれない!

 俺自身も一応は伯爵家出身でそれなりにマナー教育を受けてはいるが、やはり王族が受けるものは俺が受けたようなものとは全然違い指先の動かし方まで厳しかった。公務に出ていないせいで忘れ去られた亡霊、居なくても気付かれない存在と揶揄され『幽霊姫』とあだ名されている彼女だが、きっといつか堂々と現れた彼女を見た人たちは、自身が噂していた内容に恥じることとなるだろう。

「すっごく疲れたしお腹がすいたわ。誰かが私を突き出したせいで」
「ハイハイ。で、今日はどうされますか?」
「んー、そうね、今日は離れの裏で食べようかしら」
「かしこまりました」
 結構適当な返しをするが、俺のそんな不遜な態度は気にもしないエヴァ様は、どこで昼食を食べようか考えて俺にそう答えた。
 主君の希望を聞いた俺が近くにいたメイドへ声をかける。バスケットに簡単な軽食を詰めてくれるよう、厨房担当への言伝を頼み、そのまま俺はエヴァ様を一度私室へと送った。彼女の着替えのためである。