幽霊姫は止まれない!

 それに、そろそろ腹を括る時間だ。



「……いえ、サイラス様さえよければバルコニーへ出ませんか?」

「もちろん構わないよ。公爵、勝手にここまで来てしまって悪かった。後ほど改めて時間を貰えるだろうか?」

「もちろんです、殿下」

 先ほどのどこか弱々しさを感じるような雰囲気は一瞬で消え、また堂々とした王太子の表情に戻ったサイラスがそう告げると、恭しくノルベルト公爵が頭を下げる。

 私たちの姿が見えなくなるまで、叔父が頭を上げることはなかった。ここからは、家族ではなく臣下としての時間へと切り替わったのだろう。



 迷い込んだ、なんて言い訳を使ったくせに、迷いなく廊下を進むサイラスの後を必死に追う。

 決して早足でもないし、急がなくても見失わない程度の速度でしか歩いていないのに、どうしてかサイラスの背中が遠くに感じて内心焦りを覚えた。



(どうしたのかしら)

 感じたことのない胸騒ぎに、気が重くなる。

 この気の重さが足取りを重くし、サイラスと距離ができたように感じるのかもしれない。



 夜の凛とした空気を楽しむように、窓の外を眺めながらサイラスが廊下を進む。