幽霊姫は止まれない!

 だが今ここには私だけ。いつまでも自ら手放した相手に固執するなんて不毛なことをしていてもすすめないから。

「さぁ、行きましょう。サイラス様」
「了解」
 
 そうして私は、サイラスのエスコートで会場へと向かったのだった。

 今晩の夜会は、公爵夫人が主催する舞踏会。主に貴婦人が多く、見合いのような意味合いが薄いぶん、私と同年代の令息や令嬢の姿はあまり見られなかったが、それでもいないわけではない。そしてそんな令嬢たちの視線を一斉に浴びても顔色ひとつかえないサイラスに、私はぽかんと口を開けた。

(いや、堂々としすぎでしょ)

 にこやかに手を振ることはしないが、不躾な視線を浴びても嫌な顔もしない。彼のこの姿は、まさに毅然とした王子様で、私の理想とする王族の姿でもあった。

「もしかして惚れてくれた?」
「え? いや、まぁ、もしかしたら」
「うはっ、これも響かない!」
 思わずつれない本音を返してしまうが、そんな私の失礼な反応も楽しむように吹き出した彼は、相変わらず穏やかで優しかった。

「公爵夫妻は……そこだね。どうする? 俺だけで挨拶してきてもいいけど」