幽霊姫は止まれない!

 文字通り私を捕まえキィキィと喚く濃い茶色の髪を持つその護衛騎士は、藍色の瞳をグッと細めて大きなため息を吐いた。
 掴まれている腕は決して痛くないよう力加減をしてくれているようだが、さすが我が国の最年少ソードマスター、オスキャル・スワルドンだ。拘束から逃れようと腕に力を入れるがびくともしない。それに私の腕を掴んでいる手の甲をつねっても無反応で、オーラで鎧のように自身の体を強化する技も使っているのだろう。才能と技術の無駄遣いである。

「いいじゃない、ちょっとくらい! だって私は悲劇の姫君、エーヴァファリン・リンディなんだから」
「全く理由になってませんし、護衛騎士である俺がつっこみにくいことを堂々と言わないで貰えますかね!?」
「あら。貴方も笑いたかったら笑えばいいのよ。事実に基づいた冗談なんだから」
「笑えねぇぇ!」

 ふふん、と鼻を鳴らしてそう言うと、私を拘束したままオスキャルが天を仰いだ。残念ながら私の腕を掴む手は捨て身の冗談を言っても緩まなかったが。

 ――悲劇の末姫、エーヴァファリン・リンディ。