幽霊姫は止まれない!

 暫く父との間に感傷的な沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは私だった。

「失礼いたしました。……話はまだ、あるんですよね?」
「あぁ。先ほども言ったようにエヴァが隣国へ向かうことにした理由がもうひとつある」
「国のための視察以外に、ですか?」
「婚約の申込書が、『妖精姫』宛になっていたんだ」
「妖精姫?」
 告げられた言葉に思わずごくりと唾を呑む。妖精姫、というあだ名を聞いたことはない。が。
「紛れもなく妖精かと思いますが」
「同感だ」
 しかしそんな下心が隠れていそうな上っ面だけの呼び名を無礼にも書いてくるだなんて見逃すわけにはいかないだろう。まぁ、見る目があることだけは認めてやらんこともないが。
「だが、エヴァは隣国との接点はない。どこでエヴァを妖精だと判断した?」
 その指摘にドキリとする。
 確かにそうだ。体が弱く、心も優しすぎるゆえに繊細な妹の興味は国民の生活だ。こっそりと王城を抜け出し、城下町で国民と心を通わす妹は、国民に可愛がられこそしても貴族との接点は極端に少なく、顔すらほぼ知られていない。そんな妹を、どうして国境の向こうにいる求婚相手が妖精だと判断できたのだろうか。