空に還る。

きっちゃんの手のひらが私の頭を撫でる。

ヒックヒックと嗚咽を漏らす母の泣き声。
泣かないようにしているのか、
グッと奥歯を噛み締めているような表情の義父。

喉に力を入れても涙は次々と溢れてきて、
カラカラの唾液をわざと飲み込もうとしていた喉の奥が痛い。

「春から探しよったって…あんた達、不倫しとるけん帰らんかったとじゃなかと?探しよったって帰ってはこれるたい」

震える声で、しゃくり上げながら言った私に、
両親は顔を見合わせて笑った。

「それは絶対になか。はようあんずに話せるように必死やった。やのに顔ば合わせるたびに酷か態度ば取ってしまうけん帰るとの怖かった。こげん子どもば置き去りにして…。ごめんね。素直になるとってこげん難しかったとね…」

「私、明日からすぐに″はい、そーですか″って切り替えはできんばい。簡単には普通になれん。でも挨拶くらいはしたか。そこから家族ば練習したか…」

ソファから立ち上がった母が、私の体をギュッと抱き締めた。
大きく広げられた両腕に
私の体は一瞬硬直したけれど、
伝わってくる母の体温に涙が出た。

やわらかい。

忘れていた母の匂いがする。

私は産まれたての赤子のように
大声を上げて泣きじゃくった。