「あんずの母ちゃん…」
きっちゃんが握ってくれていた手を離して、
そのままギュッと拳を握り締めた。
「貴市くん?なんね?」
「あんず、ずっといい子にしとったっばい。そうしてれば自分ば見てくれるって信じとったけん。親ば喜ばすことばいっぱい考えてここで待っとった。僕が来てからもあんずは遊んでばっかりじゃなかった。あんずは僕に気ば遣わせんようにしとったと思うけど、僕が寝てから勉強ばしよったとも知っとる。受験、って言うとや?それに合格したらきっと喜んでもらえるって…」
「あんず…」
「もう…きっちゃん…言わんでよ。落ちる可能性のほうが高かとにさ。…あんた達の為だけじゃない。自分が思っとったよりも凄かことのできたら自分のことも好きになれるって思ったけん。そしたら家族になんか依存せんでもよくなれるって思ったけんばい。一人ででも生きていける人になりたかった。誰かに与えられんでも自分の力で幸せになれる人になりたかった」
「あんずはこげん大人になっとったとに…私が…私があんたば殺してしまおうとしとったとね…。怖かったと。あんたの顔ば見たらまた酷いことしてしまうかもしれん。愛しとるなんてこと、もうとっくに嘘みたいになってしまって…。お姉ちゃんが出ていってからここまで家族ば壊してしまったとねって思ったら自分のせいとに被害者みたいに恐ろしくてさ…。あんたの顔ば見るとも怖くなって家ば空けるようになった。最低限の生活費さえ置いとけば親の義務は果たせとるやろうって言い聞かせて。そいでも春にさ…」
「その話はせんで」
「…なんでね」
「よかけん。今は聞きたくない。同情ならせん。今度こそ愛ば亡くしてしまったとは私やけん」
母がしようとしていた話を遮ったのは、
そこに祖母の話が含まれることが分かっていたからだ。
きっちゃんは私がみい子の孫だってことを知らないけれど
聞かせたくはない。
「じゃあその話はせんけん。でもな、春に、あのことがあって、俺とお母さんは決めたっばい」
「なんばね」
「家族ばやり直そうって」
きっちゃんが握ってくれていた手を離して、
そのままギュッと拳を握り締めた。
「貴市くん?なんね?」
「あんず、ずっといい子にしとったっばい。そうしてれば自分ば見てくれるって信じとったけん。親ば喜ばすことばいっぱい考えてここで待っとった。僕が来てからもあんずは遊んでばっかりじゃなかった。あんずは僕に気ば遣わせんようにしとったと思うけど、僕が寝てから勉強ばしよったとも知っとる。受験、って言うとや?それに合格したらきっと喜んでもらえるって…」
「あんず…」
「もう…きっちゃん…言わんでよ。落ちる可能性のほうが高かとにさ。…あんた達の為だけじゃない。自分が思っとったよりも凄かことのできたら自分のことも好きになれるって思ったけん。そしたら家族になんか依存せんでもよくなれるって思ったけんばい。一人ででも生きていける人になりたかった。誰かに与えられんでも自分の力で幸せになれる人になりたかった」
「あんずはこげん大人になっとったとに…私が…私があんたば殺してしまおうとしとったとね…。怖かったと。あんたの顔ば見たらまた酷いことしてしまうかもしれん。愛しとるなんてこと、もうとっくに嘘みたいになってしまって…。お姉ちゃんが出ていってからここまで家族ば壊してしまったとねって思ったら自分のせいとに被害者みたいに恐ろしくてさ…。あんたの顔ば見るとも怖くなって家ば空けるようになった。最低限の生活費さえ置いとけば親の義務は果たせとるやろうって言い聞かせて。そいでも春にさ…」
「その話はせんで」
「…なんでね」
「よかけん。今は聞きたくない。同情ならせん。今度こそ愛ば亡くしてしまったとは私やけん」
母がしようとしていた話を遮ったのは、
そこに祖母の話が含まれることが分かっていたからだ。
きっちゃんは私がみい子の孫だってことを知らないけれど
聞かせたくはない。
「じゃあその話はせんけん。でもな、春に、あのことがあって、俺とお母さんは決めたっばい」
「なんばね」
「家族ばやり直そうって」



