空に還る。

また、玄関のドアが開く音がした。

もう…。なんでよりにもよってこんな時に。
思った通り、リビングに入ってきたのは母だった。

母は私と義父に何か言う前に、
きっちゃんに「まだおったとね」って言った。

「すみません」

「きっちゃん、謝らんでよか」

「…もう勝手にせんねって。あんず、あんたもいちいちイライラしてくっとやめんばね」

「は?そっちが挑発してきよったいな!」

「あんず…。ちょっと話ばしようで。そん為にお父さんのことも呼んだったい」

「きっちゃん…」

「僕、外に出とろうか?」

「あんたもおったらよか」

「お母さん、なんで?」

「…どんだけ言ってもあんずは折れんけんね。おるおらんでまた言い争いになったらややこしか。あんたにとってこん子がおたほうがよかっちゃろもん」

変だと思った。
あのヒステリーな母が声を荒げることもなく、
私がイライラした態度をとっても諭すようなことしか言ってこない。

義父も母が帰ってくるまではあんな態度だったくせに、
急に何かを思い出したみたいにしおらしい。

不気味だった。

話って…。
きっちゃんの前で今更なんの話をしようっていうのだろう。

私達は既に修復不可能なのに。