空に還る。

「きっちゃん…きっちゃん、起きてっ」

きっちゃんの体を揺する。
触れた腰回りが思っていたよりも薄くて、心臓がドキッて鳴った。

海の家ではあんなにいっぱい食べていたし
ここに来てからずっと一緒にご飯を食べているけれど、
やっぱり普段から蓄積されたものが、きっちゃんの体には無い。

きっちゃんを本当に元の時代に帰すべきなんだろうか。
もしも戦争を生き抜くことができたとしても、
戦後、食糧難とかで栄養失調になったりしないだろうか。

だったらこのままここに居たほうが…。

それは、違う。

そんなのは私のエゴだし
きっちゃんの幸せを考えた答えだとは思えない。

きっちゃんは確かにここでの生活に安心はしてくれているけれど
一番会いたいのは、家族だ。

そして向こうで待っているであろう、初恋の人。

私のばあちゃんとの恋が成就するかは分からない。
だってばあちゃんは、じいちゃんと結婚しているんだし。

きっちゃんの恋が叶った瞬間に、
もしかしたらこっちの世界で私が突然消滅しちゃうってことも有り得るのかも。
だって、きっちゃんが時空を飛び越えてきちゃうくらいだもん。
突然死のほうがまだ自然現象のように思える。

私はそれでも構わない。
この家にも世の中にも、未練なんてない。

私を私だと認識して見てくれる人なんて…。

そう思ったけれど、
今は脳裏に琴音とサコソウの顔が浮かぶ。

生きたい理由ができてしまったかもしれない初めての感情に
心臓が動揺している。