空に還る。

あんなに「もったいない」って言っていたくせに、
琴音は水着を持ってきていなかった。

当然、きっちゃんは水着なんて持っていないし、
うちにも無い。
でもプールと違って海ならTシャツと短パンを着たままでも入れるしいいかって思っていたけれど、
サコソウが今よりもうちょっと身長が小さかった頃の物を持ってきてくれていた。

っていうか、やっぱり千二百円も払って来るようなお洒落なビーチでは、
よっぽど小さい子ども以外、
誰も服のままで泳いだりなんかしていないから本当に助かった。

「琴音、水着もったいなかって言いよったやん」

「だって、あんずは絶対泳がんやろ?」

「そうやけど」

「お見通しですー。今日は男同士、女同士遊んだらよかたい」

「えー。サコソウ、よかと?」

「俺は全然、むしろ歓迎!きっちゃんは?あんずがおらんでも平気?」

「うん」

「じゃあ私達は荷物ば守っとくけん」

海の家の貸出所で借りた、下部に重しの付いたパラソルを設置して、
イグサの敷物を敷いた。

シャワー更衣室で水着に着替えてきたきっちゃんとサコソウは、
本当の兄弟みたいに仲良く海で遊んでいる。

きっちゃんの、こんがりと焼けた肌には太陽と海がよく似合う。
こうやって見れば私達と何も変わらない普通の少年なのに、
本当は九十三歳かもしれない、なんてこと未だに信じられない。