空に還る。

その日、作戦会議だったはずなのに、
明日の海の計画とか、きっちゃんの時代ではどんな遊びが流行っているのかとか、
結局はお菓子を食べながら談笑をするだけの会になった。

それでもよかった。
きっちゃんが楽しそうだったから。

今はあの「悪魔」のことを忘れてしまっても、許してほしかった。
生きることは苦しいことだけじゃないって教えてくれたきっちゃんにも、教えてあげたかった。

その日の夜。
きっちゃんの時代にだって当然あるであろう素麺を茹でた。
大葉や茗荷、ネギ、生姜。
薬味もたっぷりと用意した。

きっちゃんは初めて素麺を食べる人みたいに
うまか、うまかって言いながらいっぱい食べた。

「あんず。僕、気づいたことのあるばい」

「なに?」

「また家族と食卓ば囲みたかけどさ。それはまた別の話たいね。うまかもんはなんば食べるかじゃなかね。誰と食べるかや」

「えー?私と食べたらうまかとも倍増ってことー?」

「そうたい。あんずと食ったらなんでもうまか」

冗談のつもりで言った私に、きっちゃんはとびっきりの笑顔でサラッと言った。
なんだか照れ臭くなって、返事の代わりに私はわざと大きく音を立てて素麺をすすった。