空に還る。

変な話。
きっちゃんは、私にとっての生きがいになっていた。

たった昨日のこと。
数奇な運命で出逢ってしまった少年。

死を、この町からドロップアウトすることだけを願っていた私に、
生きることを渇望するきっちゃんの姿は眩しすぎた。

自分に与えられた、このメチャクチャな家族を恨んだ。
「普通」の人には分りっこないって心を閉ざした。

衣食住で脅かされることが今のところはなくて、
よっぽどのことがない限り、突然他人から命を奪われることもないと信じきっている平和ボケ。

その「ありきたり」と呼んでしまえる日常が、
きっちゃんが生きてきた時代では奪われてしまっている。

それでも生きたいと、
家族に、好きな人にもう一度会いたいと願えるきっちゃんは
私の光になった。

「あそこにおったとがあんずじゃなかったら。僕はとっくに気の狂ってどげんかなっとったかもしれんね」

「大丈夫。私達ば信じて。きっちゃんをここで死なせたりは絶対せんけん」

きっちゃんの願いが叶うということは
私達のお別れってこと。

私はまた光を失うことになる。

それでも今なら分かる。

俯いて、自分の足元だけを見て生きていた私のその先で、
琴音やサコソウがずっと待っていてくれたことを。

だから大丈夫。

大丈夫だからきっちゃんも、
お別れに泣きそうな顔、せんでね。