空に還る。

「はぁ?泊めるって?」

「街の子たい。夏休みやけん田舎の暮らしばしてみたかとって。ゲームとかであるたい。おじいちゃんの田舎とかに遊びに行って思い出作り、みたいなさ」

「だけんってなんでうちにっ…」

「すみません、俺の弟なんです」

ヒステリー気味に少し高い声を出した母の声を遮るように、サコソウが立ち上がった。

「…あなたは?」

「迫颯馬っていいます。あんずさんのクラスメイトで、琴音さんとお付き合いさせてもらってます。俺の弟…貴市っていうんですけど。親が忙しくて夏休みもどこにも連れていってあげられなくて。こういう思い出、同級生よりも少ないんですよ…。すっごく勝手なことお願いしてるのは分かってます。でも数日間だけ…お願いできないでしょうか?」

「なんば言いよっとね、子どもだけで!なんかあったら誰が責任取ると?」

「そげんと今更やん!散々…私はいつも一人ばい!?″子供だけ″って最初から一緒に見る気ないんやったらほっとけば!?」

「なんね!その言い方はっ!」

サッと振り上げられる手のひら。
ギュッと閉じた瞼。

想像だけで、十分痛い。
簡単に思い出すことができる。
肌がぶつかる音も、感触も。

脳内をいっぱいにしたのは痛みよりも絶望だった。
誰の前であろうと制御できないヒステリーが、
惨めで堪らなかった。

でも、私の頬にも体にも、
その痛みは走らなかった。