空に還る。

「きっちゃん」

「なんね、あんず」

「もしもね、もしもばい?もし、きっちゃんが戻ることのできんでも、いつまででもここにおってよかっちゃけんね?迷惑かけるとか邪魔になるかもしれんとか絶対無いけん」

「お前は優しかね。なんも返せんで悪かたい」

「なん言いよっと。きっちゃんはあんずの話も聞いたっちゃろ?たった一日でおかしかかもしれんけどさ、あんずは絶対救われとるとばい。誰かば守りたかって思える感情が自分の中にも残っとったことにさ」

「琴音…?」

「あんず。気づいとるに気まっとっちゃろ。あんたがずーっと自分の環境は普通じゃなかって卑下しとることも、自分ば好かんことも。あんたからは生きたいって気持ちが伝わらんことも…。ちょっと親友ばナメ過ぎばい?だけんあんずがきっちゃんのこと話してくれたとが嬉しかったと。信じてくれたことが嬉しかったと。いーっつも″全員敵″みたいな目ばした子からそげん想われたらこっちだって信じるに決まっとるやろ。ねぇ?」

「そうばい。中村、俺がことの事でいっちゃん嫉妬しとっとはお前んことたい。よう二人で遊びいきよったけどさ、中村の話ばっかすっとばい。じゃあ中村と付き合えよーって拗ねて告れんかったっちゃけん」

「もう…なんねそれ…」

ストッパーが壊れてしまったみたいに次々と流れる涙を、
テーブルの下にあったティッシュを掴み取ってきっちゃんが拭いてくれた。

「生きろ」

二人には聴こえないくらいの音で言ったきっちゃんの声が鼓膜に張り付いて、

私は、ここでなら生きていかなきゃって、
思えてしまった。