空に還る。

「なんね、きっちゃん。好いとる人のおると?」

グッと押し黙ったきっちゃんは、ちょっと考える素振りを見せてから、小さく頷いた。

「よかたい。きっちゃんの時代やもん。恋くらい許されんばただの地獄たい」

地獄。
あの時代を象徴するかのような言葉。
誰にも咎められることなく口にできるのも、
この時代の特権なのだろう。

「恋は贅沢品ばい」

「そがんことなか。有難いって思うばい?俺みたいなんば好いてくれて。幸せやもん。でもな、恋は誰にでも平等に許されたご褒美やろ?きっちゃんも恋してよかと」

″今度は男らしくキメる″。

その宣言をサコソウはサラッと回収して、琴音は顔を染めるどころか、
今度こそ泣き出してしまいそうだった。

「でも僕の…」

「きっちゃん、分からんばい。私が言ったとは″今の″話。そっちの時代ではきっちゃん達がどげんなったかは知らんもん。やけん信じとこうよ」

「そうやね…」

「きっちゃんはその人が初恋?」

琴音が目をキラキラさせている。
きっちゃんは恥ずかしそうに俯いて、
「あげん素敵なおなごはおらん」って小さい小さい声で言った。