空に還る。

「これ。きっちゃんに出逢った時に着とったと」

二人にハンガーに掛けていた国民服を見せた。

サコソウが膝に乗せて、しげしげと眺めながら「えらい希少価値やね」って呟いた。

「すっごい。破けとるとも、(すす)けた感じもリアル」

「本物やけんね。靴は玄関に置いとったと、見た?」

「ゴム製のやろ。俺らさ、原爆資料館で何回も見たやん。その一部とかさ。でもきっちゃんにとっては昨日のことやろ?なんか…これがいけんっちゃけど、今になってようやく実感してしまったっていうか…」

これこそが現代の恐ろしさなんだと思う。
当事者がどれだけ声を震わせて当時の地獄を叫んでも、
目の当たりにしていない私達に、純度高く伝え続けることは難しい。

まるで伝言ゲームのように。

いつか当事者達を失くしてしまうこの世界では、少しずつ「リアル」が薄まっていって、
風化していってしまうのかもしれない。

そんなことは絶対にあってはならない。

なのに、それを伝え続けていくことがどれだけ難しいことなのか
私達は身を持って思い知った気がした。