「待ち合わせは神社で」。
そう言えば、もう何度もうちに来たことがある琴音にはすぐに伝わる。

神社の小さい境内の階段。
木陰に隠れるようにして待っていたら
待ち合わせの十二時ピッタリに、
琴音ママの水色の車が鳥居の前の歩道に到着したのが見えた。

車に駆け寄ったら琴音とサコソウが降りてきて、
運転席からサングラスをかけた琴音ママが手を振ってくれている。

胸の下まで伸ばしたキャラメルブラウンのロングヘアがツヤツヤで、
琴音ママはいつ見ても美しい。

「あんずちゃん、久しぶり」

「すみません。琴音のこと呼び出しちゃって」

「いいのよ。プチドライブ楽しかったし。彼ともお喋りできたしね?」

「もー!茶化さんでって!」

琴音は顔を真っ赤にした。
ひょっとしたら夏の熱気のせいかもしれない。

琴音ママは横浜出身で、パパさんとは当時、勤め先の横浜の支社でパパさんが働いていて、
ママさんは部下として出会った。
結婚を機に、子育ては自然豊かな町でしたいからと、
パパさんの地元に引っ越してきた。
ママさんの意向だけで転勤願まで出すんだ。
パパさんは相当好きなんだろうな。

きれいな大人の女性。キラキラした横浜を想わせる標準語。
それだけで憧れてしまう私は、やっぱりこの町に囚われている。

「じゃーね。琴音、帰る時はまた連絡しな」

琴音が手を振って、私とサコソウは頭を下げた。