空に還る。

「うちに帰ろう。きっちゃん」

夕方になって、少しだけ太陽の熱も弱まり始めた。
最近では夜中でもセミが鳴いている異常気象だから
こうやってほんの少しでも涼しい時間が訪れるとホッとする。

きっちゃんはコクンって小さく頷いて、
家への道を私についてきた。

「シャワーでも浴びる?」

「シャワー…?」

「あー、お風呂、入るかなって」

「そげん贅沢…よかとね?」

「家族に申し訳ないって思うかもしれんけどさ。今はそれが当たり前。風呂入らんならお布団では寝かせられませーん」

「僕は別に平気かけど」

「あーもう嘘じゃん!笑ってよ、きっちゃん」

「笑う?」

「うん。きっちゃんに笑ってほしかっただけばい?せっかくなんか…意味の分からん運命で出逢ってしまったとやけんさ。寂しいもん同士はせめて笑っとったほうが得やろ」

「なんね、そいは。あんずはほんとおかしかね。弱虫なんか強いんか分からんばい」

「悪口ですか?」

「褒めとっと。明るくなったばい」

「それはよかったです」

きっちゃんにバスタオルを渡して、シャワーの使い方を教えてから
私はリビングに戻った。

さっきからポケットに入れっぱなしだったスマホが震えている。

通話の呼び出し履歴がいっぱい更新されていて、
全部琴音からだった。