空に還る。

「八月九日…十二時二分。きっちゃん、ここに逃げ込もうとしたと?」

「畑におったったい。手伝いば全然せんけんがさ、母さんに怒られてみっちゃんと一緒に手伝いよったと。ピカー…ってね。雷の筋ごた光が走ってさ」

きっちゃんは繁華街の方向の空を指さした。
私にとっては八十年前の話。
きっちゃんにとっては、ほんの数時間前のこと。
鮮明に思い出せるから、目の前で起きていることみたいにまん丸の目を見開いて、
肩を震わせた。

「地面が割れたと思った。言い切れんくらいの風がさ…。一瞬やったっばい。母さんが走れ!って叫んでからさ。慌てて僕の防空頭巾ばみっちゃんに被せたっさ」

「きっちゃんのを?」

そう言えば、きっちゃんは防空頭巾を下げていない。
いつ訪れるか分からない空襲に備えて、
ほとんどの子どもたちは国民服の腰の辺りに防空頭巾を下げていたって聞いたことがある。

「みっちゃんの頭巾、破れとったっさ。姉ちゃんが縫ってくれるって言いよった時やけん」

「そうね…」

「父ちゃんは工場(こうば)に出とる時やった。弁当ば忘れて行っとってね。姉ちゃんが届けに行ってくれとったけん、家には三人しかおらんかった。轟音と地響き、えらい風でもう前に進むのすら恐ろしくてね。三人で手ばきつー握って…ここまでなんとか来て…」

どんどん小さくなっていくきっちゃんの声。
まるで法廷で証言台に立たされた容疑者みたいに、
罪を告白するみたいに、きっちゃんの声は震えている。

そして、そっと、きっちゃんは言った。