空に還る。

「きっちゃん」

「あんず。戻ったとね」

「かのちゃんに聞いたが早かけん聞いてきた」

「なんて言いよった」

「そがんとはずーっと昔やろ、って。戦後すぐとか…かのちゃんが私くらいの時にはもうあったって」

「そうたいね。あんず、ここ、なんがあったか知っとる?」

この石のことをわざわざ取り立てて話題に出すことは無い。
元々何があった場所かなんて知らない。

「知らん。聞いたこともなか」

「防空壕たい」

「防空壕…?ここに?」

きっちゃんは頷いて、グッとしゃがみ込んだ。
どっしりと置かれた石の下を覗き込むことはできない。

「昔は神社でもなかった。少なくとも昭和二十年はさ。この取り囲んどる塀。ここに入口のあってさ。下に穴の広がっとるとばい。狭かけん、沢山は入りきれん。こげん小さか田舎でもいくつか防空壕ば掘ってさ。とにかく近くに逃げ込む。入りきらんとか言っとられん。無理矢理でも押し込むようにしてさ」

「もう…埋められてしまったとね」

「危なかけんやろうね。小さか子が入って出てこれんようなったら大事(おおごと)たい」