空に還る。

もう暑過ぎるけん無理、って言いながら
かのちゃんは家の中に戻っていった。

ずっと俯いていたきっちゃんは、
ギュッて下唇を噛んでいる。

「きっちゃんのこと、聞いてみたがよかった?」

きっちゃんは弱々しく首を横に振った。

「怖か」

「怖い?」

「知らんって言われたら」

「今気づかんかったとはアレよ?ちょっとしか見とらんし。今のきっちゃんも大人やけん。面影のあんまなかとかもしれんし」

「ありがと、あんず。あー、でも。かの子はやっぱきれいかね」

「かのちゃん、もう八十代ばい」

慈しむように微笑んだきっちゃんがなんだか悲しくて
かのちゃん、ごめんって思いながら、冗談を言うことしかできなかった。

「年齢とか関係なか。おなごは一生、華たいね」

「きっちゃん、モテるやろ」

「は?どげん意味ね?」

「女ったらしってこと」

「はぁ?そいでも、あんず。お前嘘のうまかね」

「どうも」

かのちゃんが聞いたら喜ぶだろうな。

教えてあげられたらいいのに。

そんなことを思いながら、
スタスタと目の前の神社に入っていくきっちゃんの後を追った。