私は小さい頃から何度もばあちゃんやじいちゃんに戦争の話を聞いている。
二人とも生まれてから一度もこの町から出て暮らしたことはない。
幼馴染になる二人だけど、二つの家は地位がまるで違った。
じいちゃんの生家は貧しかったけれど、ばあちゃんの生家はたばこ屋の他にも私のひいじいちゃんが商売をしていたし、
その時代でも割と裕福な家だった。
身分が違うじいちゃんは、ばあちゃんのことを高嶺の花だったっていつも言っていた。
そんな、生まれた時からずっとこの町にいる二人から、
「この町が空襲にあったり、原爆が落ちた」っていう話は聞いたことがない。
空襲警報は頻繁に鳴り響いていたから
何度も防空壕に避難する毎日だった。
原爆は今の長崎市の繁華街のそば、
ここから四十キロほど離れた場所に投下されている。
それでも遠くのほうで空が強く光ったこと、
ひどい揺れと風を感じたという。
下にきょうだいが多かったばあちゃんは
全員を連れて防空壕まで走ることは無理だって瞬時に判断して、
台所の隅できょうだい達に覆い被さるようにして、ただジッとしていることしかできなかったって話してくれた。
ただ、この町には実際のところ空襲も原爆投下も無かった。
大規模に町が焼かれたことも無かったはずだ。
きっちゃんの家が取り壊されて、
今は更地になってしまっている理由は分からない。
その土地が誰の物だったのか、私には分からないから。
そこに住んでいた「きっちゃん」が
今は誰なのか。
あぁ、そうか。
きっちゃんのフルネームを聞けば、
かのちゃんを知っているんだから手掛かりには…。
そう考えていた思考を、きっちゃんの声が遮った。
二人とも生まれてから一度もこの町から出て暮らしたことはない。
幼馴染になる二人だけど、二つの家は地位がまるで違った。
じいちゃんの生家は貧しかったけれど、ばあちゃんの生家はたばこ屋の他にも私のひいじいちゃんが商売をしていたし、
その時代でも割と裕福な家だった。
身分が違うじいちゃんは、ばあちゃんのことを高嶺の花だったっていつも言っていた。
そんな、生まれた時からずっとこの町にいる二人から、
「この町が空襲にあったり、原爆が落ちた」っていう話は聞いたことがない。
空襲警報は頻繁に鳴り響いていたから
何度も防空壕に避難する毎日だった。
原爆は今の長崎市の繁華街のそば、
ここから四十キロほど離れた場所に投下されている。
それでも遠くのほうで空が強く光ったこと、
ひどい揺れと風を感じたという。
下にきょうだいが多かったばあちゃんは
全員を連れて防空壕まで走ることは無理だって瞬時に判断して、
台所の隅できょうだい達に覆い被さるようにして、ただジッとしていることしかできなかったって話してくれた。
ただ、この町には実際のところ空襲も原爆投下も無かった。
大規模に町が焼かれたことも無かったはずだ。
きっちゃんの家が取り壊されて、
今は更地になってしまっている理由は分からない。
その土地が誰の物だったのか、私には分からないから。
そこに住んでいた「きっちゃん」が
今は誰なのか。
あぁ、そうか。
きっちゃんのフルネームを聞けば、
かのちゃんを知っているんだから手掛かりには…。
そう考えていた思考を、きっちゃんの声が遮った。



