空に還る。

「ラクかね」

「やろ。行こ」

太陽はまだ高い位置にある。
汗が一気に吹き出して、呼吸も浅くなる。

「えらい暑かね」

きっちゃんが原爆の熱に焼かれたのなら
想像もできない、想像するだけでも恐ろし業火だ。

でも、そうか。
地球は年々、夏の気温が上昇していて、平均気温を更新していく。

きっちゃんが生きていた時代の、
″日常″の夏は、もっと気温が低かったのかもしれない。

「あっちから行こう」

たばこ屋、神社とは反対方向の、さっき窓から見ていた海の方向に歩き始めた。

七人きょうだいのばあちゃんの、一番上のお兄さんの家も、
すぐそばのじいちゃんの弟の家も、きっちゃんは知らないって言った。

民家が並ぶ歩道を二、三分歩いたら、車道に繋がる三十メートルくらいの坂がある。
その手前に細い小道があって、上のほうに民家や、果物の木、
どんどん上に登って行ったら国道に繋がっている。

その小道の少し上のほうをボーッと眺めていたきっちゃんが
「無い」って呟いた。

「無い?」

「僕の家。無かごた」

「…立て直したとかもね、どっか…近くに。ひょっとしたら違う町に引っ越したとかも」