空に還る。

「愛されとらんとか?」

「愛されとらんやろ。愛しとったら全部の説明がつかん」

きっちゃんは私の話を聞きながら、
聞き終えた後も眉間に皺を寄せたまま坊主頭を掻いた。

リビングのテーブルに置いたままだったチョコレート菓子の箱を取って、
きっちゃんに「食べる?」って訊いたら
素直なきっちゃんは眉間の皺をスッと消して、
また珍しそうに箱を眺めてコクンって頷いた。

「手のひら出して」

言われた通りに差し出された手のひらに箱を傾けてチョコレート菓子を出してあげる。
いちご味。山型で、三分の二がピンク色。下は茶色。

コンビニで視界に入ったらつい買ってしまうんだ。

まだアパートで暮らしていた頃、
機嫌がいい日の母が唯一うれしそうに食べさせてくれていたチョコレート。

「他のチョコと違ってちょっと高いっちゃけん、特別ばい」ってニコニコしながら。

それもパチンコの景品だったんだって今なら分かる。
その箱には煙草のにおいが染み付いていたから。

今はもう母からは与えられないお菓子を時々買ってしまうのは、
私がトラウマにまだ執着している証拠だ。

愛されたい。

私を思い出してほしい。

拭い切れない願いに、私だけが縛られている。

「甘かね」

「おいしいやろ?」

夏の温度でちょっと溶かされれてしまったチョコレートは
ぬるくて、やわらかかった。