空に還る。

一番恐ろしかったのは、
「私を私だって認識して。私をちゃんと見て」という願いが、
僅かながらに消えてくれなかったことだ。

周りはみんな、結局は姉のことしか見えていなかったんじゃないかと思う。
どれだけ警察から呼び出されても、
深夜の街を走り回ることになっても、親は姉を見捨てなかった。

どれだけ罵り合っても、
母は最後には姉を抱き締めた。

私の娘なんだ、って。
愛してるから、苦しいから、こんな風になるくらいなら自分の手で殺してやりたいんだって。

殴られた後に抱き締められた記憶は、
私には無い。

私は私を認識してほしかった。
だから勉強も頑張ったし、できるだけいい子でいよう、
母が怒らないでいいように大人しくしていよう。

私は私で在り続けることを努力した。

だけど姉は、まだ年も明けない冬。
家を出ていったっきり、音信不通になった。

それを合図みたいにして、
共働きの両親は朝、出勤したまま帰ってこない日が増えた。

この家に、私が親を引き留める力は無かった。

すごく、すごく純度が高い感情で、
死にたくなった。

死にたい。

それだけがもう、私にとって唯一の魔法の言葉になった。