空に還る。

夜中に家を抜け出して、仲間達と悪さをする。
深夜、徘徊からコッソリと帰宅すれば、
待ち構えていた母と玄関で鉢合わせ。

何時だろうがお構い無しに罵倒し合う声が飛び交った。
言い争いだけで済めばいいけれど、
時にはヒートアップし過ぎてメーターを振り切った母が包丁を持ち出す始末。
「お前を殺して私も死ぬ」って言葉が聞こえてくるたびに、
「いっそ殺して、もう静かにしてくれ」って、私は何度、心で叫んだか数え切れない。

もちろん義父は、夫婦の寝室からは出て来ない。

二階の自分の部屋で布団に潜り込んでいても、
玄関から二階まで吹き抜けになっている造りの家に、
二人の怒号はよく響いた。

元はと言えば、ネグレクトや暴力で支配しようとしていた母に責任があるはずなんだけど、
もう決して埋められなくなってしまった姉との溝に、
母は限界だった。

私だって、限界だった。

またストレスの吐口にされるんじゃないか。
「おはよう」って声をかけるだけで
うるさいって殴られるんじゃないか。

母が階段を上って二階にやって来る音が恐ろしくて堪らなくなった。
布団を被ってイヤホンから大音量で音楽を流す。
日常を遮断する方法が、それしか無かったから。

母のものじゃないのに、誰の手のひらだろうと目の前に来るだけで恐ろしかった。
体がギュッと硬くなって動けなくなる。

声をかけることも怖くなって、
うちにはおはようも、おやすみなさいも
いってきますもただいまも、聞こえなくなった。